2.1.2 DVB-C2(高度なデジタル有線テレビジョン放送方式)
2.4.2 分配光タップを用いたアンイーブンアーキテクチャコネクタソリューション
2.5.1 BWA(Broadband Wireless Access):
通信速度の高速化のために必要な技術として、HFC伝送路の高度化、変調・誤り訂正技術の高度化、それらの技術を採用したDVB-C2(高度なデジタル有線テレビジョン放送方式)とDOCSIS 3.1、DOCSIS4.0について記述する。
(1) HFC高度化(次世代HFC)
HFC高度化は、次世代HFCとも呼ばれ、小セル化(1セル内の家庭を100軒程度まで減らす)と同軸伝送帯域を1GHz程度まで広帯域化することである。その小セル化・広帯域化とHFCを構成する双方向アンプの減少により、通信速度の向上やCN比等の伝送性能の向上が期待できる。
小セル化を行うために、光ノード以下の双方向アンプを0あるいは1とし(NODE 0/NODE+1とも呼ばれる)、光ケーブルの距離が長く、同軸ケーブルの距離が少なくなることからFiber Deepとも呼ばれる。また、同軸ケーブル(周波数の1/2乗に比例して減衰量が増加する)の距離が短くなるため、1GHz以上の周波数まで通信に使えるようになる。DOCSIS 3.0の下り周波数は108〜1002MHz、DOCSIS 3.1の下り周波数は258〜1218MHz(MUST/必須)あるいは108〜1794MHz(SHOULD/推奨・MAY/任意を含む)となっている(詳細は2.1.3 DOCSIS 3.1参照)。
従来、ケーブルの放送と通信(DOCSIS 3.0以前)の物理層は、ITU-T勧告J.83に準拠したQAMと短縮化リード・ソロモン符号RS(204、188)誤り訂正技術を用いていた。最近、誤り訂正技術にはBCHブロック符号と低密度パリティチェック符号(LDPC)が用いられている。この誤り訂正技術を用いると、CN比で約7dBの改善効果があり、現在の64QAMの所要CN比で256QAMが利用できることから、約1.33倍の伝送が可能となる。さらに、DVB-C2およびDOCSIS 3.1では、4096QAM等の多値変調が規定されている。
また、通信の高速化(DOCSIS 3.0)や放送の伝送容量拡大のために、シングルキャリアQAMの複数のチャネルをボンディングする方法があるが、最新のWi-FiやDVB-C2、DOCSIS 3.1ではOFDMを使って、連続するチャネルの間の空き帯域にも搬送波を埋め込むことで伝送容量の拡大が行われている。
これらOFDMとBCH+LDPC誤り訂正方式を採用し、変調の多値化による高効率伝送可能とした。このBCH+LDPC誤り訂正方式は、欧州の放送規格(DVB:Digital Video Broadcasting)の衛星・地上・ケーブルの第二世代であるDVB-S2・DVB-T2・DVB-C2や日本の衛星放送の高度化方式に採用され、通信ではDOCSIS 3.1に採用されている。また、OFDMによる伝送は、DVB-C2、DOCSIS 3.1やEPoCで採用され、OFDMのマルチキャリア方式の特徴を生かして、6MHz帯域の枠を超えて任意の帯域を自由に使用可能な規格・仕様となっている。
現行のシングルキャリアQAM方式では、6MHzなどの放送帯域幅に信号帯域を制限するためにロールオフ率に依存していたが、OFDMでは直交したサブキャリアを密に伝送するため、ガードバンドも急峻な特性が得られ、帯域仕様効率が良くなる。また、伝送路の反射や周波数特性の補正に際して受信側で用いられる波形等化において、シングルキャリアQAM方式では基準信号がないブラインド等化のために1024QAM以上の多値QAMは実現困難であるが、OFDMではパイロット信号(Continual pilotやScattered pilot)を基準とした波形等化によって4096QAM以上の多値QAMも実現可能となっている。
さらに、OFDMのサブキャリアを6MHz帯域の枠を超えて任意の帯域まで拡大(帯域連結)でき(6MHz帯域間のガードバンドが不要)、さらなる帯域仕様効率が良くなる。また、6MHz帯域内に干渉波等が存在する場合、現行のシングルキャリアQAM方式ではこのチャンネルは使用できなかったが(いわゆる難ありチャンネル)、OFDMではその干渉波等が存在する周波数部分のみを避けて、それ以外の部分でサブキャリアを用いてチャンネル内の一部を有効利用できる。
DOCSIS 3.1やEPoCでは、6MHz帯域の枠を超えて任意の帯域(1MHz単位)で、既存の放送や通信で使用されている帯域を避けて利用可能となっている。また、上りと下りの双方向の通信利用帯域も、現状帯域(上り10〜55MHz、下り70〜770MHz)から、新規帯域1(上り5〜65MHzと下り76〜1000MHz)や新規帯域2(上り5〜204MHz、下り268〜1218MHz)などの自由な帯域で変更可能となっている。ただし、利用帯域の変更では、HFCを構成している双方向アンプの上り/下り分割周波数を変更する必要がある。
現在のデジタル放送では、短縮化リード・ソロモン符号RS(204、188)を用いているが、最近ではBCH誤り訂正用ブロック符号と低密度パリティチェック符号(LDPC)が用いられている。
BCH誤り訂正用ブロック符号とは、開発者(Bose・Chaudhuri・Hocqenghem;ボーズ、チョドーリ、ボッケンジェム)の名に由来するブロック誤り訂正符号(BCHのほか、ハミング符号やリード・ソロモン符号がある)であり、ブロック単位に特定の生成多項式を使って得たパリティビットを付加して伝送する。例えば、BCH(15、11)では生成多項式はG(x) = x4 + x + 1 を用いて、データ数(情報ビット数)が11ビット、冗長ビット数が4ビットで1ビットの誤り訂正ができる。低密度パリティチェック符号(LDPC:Low-Density Parity-Check)は、パリティチェック符号の一種である。Low-Density(低密度)とは、符号長に対して1が立つビット数が少ないということであり、Parity-Checkでは、ビット列の一定単位の中にある1の数が、偶数か奇数かをチェックすることで誤りを判定することにある。LDPCは、非常に疎な検査行列により定義された線形符号である。疎な行列とは、行列内の1の数が非常に少ないことを意味している。検査行列内の1の数が少ないことは、演算量が少ないことを意味し復号器を作ることが容易になっている。
その技術を用いると、後述(DVB-C2の図 2‑1あるいは2.1.3 DOCSIS 3.1の図 2‑8)で示すように、同じ伝送速度で所要CN比が約7dB少なくShannon限界値まで2dBと迫っている。
DVB-C2では、誤り訂正のブロック符号長は2種類用意されており、符号長が長いNormal Code(誤り訂正能力が高いが遅延量大)と符号長が短いShort Code(誤り訂正能力があまり高くないが遅延量少)が準備されているが、通常Nomal Codeを使用する。
DOCSIS 3.1(下り)では、通信で利用する際の遅延量削減のためにDVB-C2におけるShort codeのみを用い、LDPC符号化率も8/9のみとして、ハードウェアの複雑化を回避している(後述の図 2‑6参照)。
DVBは、欧州のデジタル放送方式の標準化組織、およびそこで策定された標準規格を指し、DVB規格案は欧州通信標準化協会(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)に提出され、欧州統一の規格となる。DVB標準規格は、欧州以外も含め多くの国で採用されており、既存規格DVB-Cは、前年1993年に制定されたDVB-Sを基に、1994年に制定された。日本のケーブル仕様でもこれを参照し、J.83“Annex C”として規格化されている。ちなみにDVB-Cは同勧告J.83“Annex A”として規格化されている。
DVB-C2は、第2世代デジタルケーブル規格として2009年に規格化を完了し、翌年2010年に実用化試験に着手した。2011年11月には、復調LSIの出荷が開始されている。また2013年2月に評価試験を実施し、その結果をもって規格書が最終版となっている。その後2013年6月には、欧州の事業者(Kabel Deutschland)において、DVB-C2での試験放送が開始された(条件:1024QAM、符号化率3/4)。
DVB-C2の大きな特徴として、キャリア伝送方式にOFDMを採用したことと、誤り訂正符号にLDPCを採用したことが挙げられる。これらは、衛星規格のDVB-S2/地上波規格のDVB-T2で採用されたものをそのまま、DVB-C2でも採用したものである。
国内現行規格では、変調方式はシングルキャリアの64QAM/256QAMであるが、DVB-C2はマルチキャリアのOFDM方式であり、帯域内に複数のサブキャリアを立て、それぞれ16QAMから4096QAMまでの多値QAMを選択可能である。誤り訂正は、従来のReed-Solomon符号に替わり、DVB-C2では内符号としてLDPC、外符号にはBCHを採用している。LDPC符号化率は2/3から9/10までの5種類がある。
信号帯域幅は、最大値として8MHzか6MHzかを選択できるようになっている。この最大帯域幅におけるキャリア数の最大値を8MHzと6MHzとで同じ3408としており、キャリア数を減らすことにより帯域幅を任意に減らすことが可能である。キャリア数の最大値が8MHzと6MHzとで同じであるので、キャリア間隔は8MHzの場合は2.23kHz、6MHzは1.67kHzで固定となる。
DVB-C2の伝送方式をDVB-Cおよび現行国内適応規格であるJ.83 Annex Cと比較して表 2‑1に示し、性能比較として所要CN比と伝送速度を図 2‑1に示す。
表 2‑1 DVB-C2とDVB-Cの方式比較
図 2‑1 DVB-C2とDVB-Cとの性能比較
図 2‑1は、DVB-C2の特徴をよく表すものとして用いられるものである。実線で示したシャノン限界は、Shannonが提唱した通信における伝送容量の理論限界値であり、現行のDVB-C(6MHz換算)は理論値に対してまだ隔たりがあるが、DVB-C2は理論限界にかなり近づく高い伝送効率を達成している。
現状の運用で用いられている64QAMと所要CN比が同じ場合、3割増の伝送速度が得られる。現行の256QAMの伝送速度を使いたいが、所要CN比が満たせず運用できない場合でも、DVB-C2においては256QAM/符号化率4/5では7dB低いCN比でも可能である。また現状256QAM運用が可能な場合、C2では1024QAM/符号化率9/10が使用できる。
ITU-T国際標準化においては、次世代ケーブル伝送方式の要求条件J.381に基づく伝送方式の仕様規定として、DVB-C2に準拠する新規勧告J.382が2013年12月に勧告化された。なお2017年10月の時点においては、本方式を採用した製品は日本国内では市販されていない。
DOCSIS(Data Over Cable System Interface Specification)はHFC上で高速データサービスを提供するためのシステム仕様で、その初版(1.0版)は米国ケーブルラボが1997年3月に策定した。その後、QoS機能の追加(1.1版、1999年4月)、上り変調方式の追加による周波数利用効率(b/s/Hz)の改善(2.0版、2001年12月)、チャネルボンディング機能の追加(3.0版、2006年8月)といった改訂を重ね、2013年10月には最新の3.1版がリリースされている。
DOCSIS 3.1は、OFDMとLDPCの採用によりDOCSIS 3.0に比べて周波数利用効率を3割以上向上すると共に、HFCの上限周波数を最大1.8GHzまで拡張することにより伝送容量の飛躍的な拡大を図っている。すなわち、標準的な設備構成で下り5Gbps、上り1Gbpsの伝送容量の実現をうたっている。また、従来のシングルキャリアQAM変復調器を一定数備えることによりDOCSIS 3.0との共存を可能としているのも特徴であり、DOCSIS 3.0とは世代の異なる技術を採用しているにも関わらずDOCSIS 3.1と呼称している所以である。[1]
DOCSIS 3.0と3.1版の大きな違いは、表 2‑2に示すように、伝送方式がシングルキャリアQAMからOFDMになったこと、強力な誤り訂正符号であるLDPCの導入により最大多値変調方式を4096QAM(オプションでは16384QAMまで)としたこと、また、OFDMの採用に伴って6MHzのチャンネル概念を撤廃し、最大192MHz(下り)、96MHz(上り)をシステムあたりの最大周波数帯域幅とした点等である。
表 2‑2 DOCSIS 3.0/3.1比較
DOCSIS 3.1が用いる周波数をに示す。下り帯域は、3.0が用いる108〜258MHzを拡張帯域(推奨)、258〜1218MHzを必須とし、さらに1218〜1794MHzを拡張帯域(任意)としている。上りは5〜204MHzを必須とした上で、204MHz以上の帯域は上限を決めずに任意に拡張可能としている。
図 2‑2 DOCSIS 3.1/3.0の周波数
DOCSIS 3.1による大容量化は、伝送方式の高度化に加え、このようにHFC帯域の拡張を前提としていることに注意すべきであり、以下の課題への対応が必要となる。
・拡張帯域で運用中の無線システムとの間の被干渉・与干渉への対応
・上り・下りの帯域変更に伴う中継増幅器の置換
また、多値変調を用いるためには受信端におけるCN比の改善も必要となり、このためにケーブルモデム(CM)を加入者宅内の境界点に置いたり(Gateway Architectureと称する)、HFCの小セル化や光幹線部分の拡大(Fiber Deep等と呼称)等の方策により伝送路CN比を改善することが必要となる。
DOCSIS 3.1の下りおよび上り仕様概要をそれぞれ表 2‑3、表 2‑4に示す。
表 2‑3 DOCSIS 3.1仕様概要(下り)
表 2‑4 DOCSIS 3.1仕様概要(上り)
表 2‑3、表 2‑4で2k/4k/8kモードはFFTサイズを示し、上り・下りそれぞれで2種類のFFTサイズが規定されているが、実際の運用環境に合わせて適切なFFTサイズを選択することが求められる。例えば、下り8kモードではサブキャリアの周波数間隔が25kHzとなり、4kモードの50kHzに比べてよりきめ細かく干渉波等の回避が可能となる。また、シンボル長は長い方が後に述べるガードインターバル(Cyclic Prefix:CP)の付与による伝送容量低下の影響を少なくできるが、その反面インパルス性のノイズの影響を受けやすくなる、等が考慮すべき点である。
なお、下り4kモードでは4096本のサブキャリアが生成されるが、192MHzの帯域内に配置されるのは最大で3801本で、両端の295本は電力を与えられず、利用されない(図 2‑3)。この状態のサブキャリアをExcluded(除外)サブキャリアと呼ぶ。帯域内にQAMチャンネルを配置したり、特定の帯域に存在する干渉波を避ける場合にも該当するサブキャリアをExcluded状態にする。
図 2‑3 DOCSIS 3.1のスペクトラム
DOCSIS 3.1のシステム要件を図 2‑4に示す。上り・下り共に、上に示したOFDM各2チャンネルと共に、下りは従来のQAMチャンネル24、上りはQAMチャンネル8を実装することとしている。加えて、CMTS(Cable Modem Termination System)はS-CDMAモードの上り回線をサポートすることを推奨している。
図 2‑4 DOCSIS 3.1のシステム要件
DOCSIS 3.1の下りPHY機能のブロック図を図 2‑5に示す。
信号はデータ列(情報)とシグナリング機能を担うPLC(Physical Layer Signaling Channel)に分けられ、それぞれが誤り訂正(FEC)、I/Q、スクランブル、インターリーブ等の処理を経て合成された後、逆フーリエ変換(IDFT/IFFT)によってOFDMサブキャリアが生成され、ガードインターバル(CP)および窓関数が付加される。
図 2‑5 DOCSIS 3.1下りPHY機能ブロック図
以下、各機能について概説する。
(1) FEC(下り)
DOCSIS 3.1の下りでは図 2‑6に示すように、誤り訂正符号(FEC)として外符号BCH、内符号LDPCを用いている。これは基本的にはDVB-C2仕様の6.1章[2]と同様であるが、DVB-C2では64800ビットの符号長をNormal Codeとして用いるのに対して、DOCSIS 3.1においては、DVB-C2ではShort codeと呼ばれる16200ビットの符号長のみを用い、LDPC符号化率も8/9のみとして、通信利用時の遅延削減とともにハードウェアの複雑化を回避している。
図 2‑6 DOCSIS 3.1下りFEC
(2) 多値変調方式(下り)
伝送システムでは、通常、伝送路のCN比に合わせて誤り訂正の符号化率と多値変調の組合せを調整することにより伝送性能の最適化を図ることが多いが、DOCSIS 3.1では符号化率を固定し、その代わりに非正方形変調(128QAM、512QAM、2048QAM)および混合変調(mixed modulation)を用いることにより伝送路CNへの対応を行っている。この点はDVB-C2にはないDOCSIS 3.1の特徴である。
非正方形変調の例として512QAMのコンステレーションを図 2‑7に示す。
図 2‑7 非正方形変調の例(512QAM)
混合変調は、512/1024QAM、1024/2048QAM、2048/4096QAMのように異なる多値変調を周波数軸上、時間軸上で混在させて用いることにより、中間的な所要CNを確保する技術である。
DOCSIS 3.1では、通常の多値変調に非正方形変調および混合変調を加えることにより所要CN比の粒度(granuality)を1.5dB刻みで実現している。
図 2‑8に変調方式(伝送容量)と所要CN比の関係を示す。
図 2‑8 変調多値数と所要CN比の関係
(3) 変調プロファイル
DOCISIS 3.1では、受信点で得られるCN比に合わせてOFDMサブキャリアの変調多値数を指定できる。同じ変調多値数を有するサブキャリアの集まりを変調プロファイル(profile)と呼び、AからPまでの16種類が規定される。Profile AはCMが初期化し登録する際に用いるboot profileである。
プロファイルは図 2‑9のように周波数(サブキャリア)方向と時間軸方向にブロック化され、Aから順番に送信される(図ではAからDまでのプロファイルを記載)。受信側のCMが受信すべきサブキャリアはいずれかのプロファイルに含まれ、プロファイルが一巡するまでは次のデータは受信できない。よって、プロファイルの繰り返し周期が伝送遅延(latency)となる。
図 2‑9 変調プロファイル
(4) PLC
PLC(Physical Layer Link Channel)は、CMTSからCMにOFDMチャンネルの変調多値数等のパラメータを通知するシグナリングチャンネルである。
PLCは図 2‑10に示すように連続して6MHz以上の帯域が確保できる周波数帯に4kモードで8本、8kモードで16本のサブキャリアとして配置される(共に全帯域幅は400kHz)。PLCの最も周波数の低いサブキャリアは1MHzの整数倍の周波数に配置することとなっており、イニシャライズ時にCMは1MHzごとに帯域をスキャンしてPLCを探す。
図 2‑10 PLC配置図
図 2‑11に示すように、PLCはプリアンブル8シンボルとデータ120シンボル(合計128シンボル)の繰り返しで構成され、プリアンブル部はBPSK、データ部分は16QAM変調と専用のLDPC(384、288)を用いる。
図 2‑11 PLCの構成
(5) CPおよび窓関数
DOCSIS 3.1では、遅延波による干渉を低減するCP、および送信スペクトラムの帯域外減衰特性を改善する窓関数が仕様化されている。
図 2‑12 CPと窓関数
CPはガードインターバル(G/I)とも呼ばれ、図 2‑12 (a)(b)に示されるように、情報を伝送するシンボルに付加されるため伝送容量が減少するが、HFC内の反射等によって生じる遅延波の影響軽減に有効である。DOCSIS 3.1の下りではCP長(NCP)として0.9375、1.25、2.5、3.75、5.0µsの5種類が規定されている。CP値が大きいほど、長い遅延に対応可能だが、伝送容量への影響が大きくなる。CPと伝送容量の関係を図 2‑13に示す。特に4kモードではシンボル長が20µsと短いため、CPの値によっては容量が大きく低下することがわかる。
図 2‑13 CPと伝送容量の関係
一方の窓関数は、図 2‑12 (c)に示すように、矩形シンボルの両端にraised cosine関数を掛け合わせ、時間軸上でなだらかな形状にするもので、ロールオフ長(NRP)により規定される。NRPは下り方向では0(窓関数なし)、0.3125、0.625、0.9375、1.25µsの5種類が利用可能である(ただし、NCP>NRP)。ロールオフ長を長く設定するほど、システムおよび除外帯域(exclusion band)の両端において周波数領域で急峻な帯域外減衰特性が得られるため、隣接のQAM信号等への影響を低減しつつ、より多くのOFDMサブキャリアが運用可能となる。しかし、図 2‑12 (d)に示されるようにロールオフ長の半分は隣接のシンボルと重なるため、シンボル間干渉が増加する欠点がある。
DOCSIS 3.1の伝送容量を最大化するためには、運用するHFCの特性や隣接の他のサービスの運用状況に合わせてNCPとNRPの値を最適化することが必要となる。
(1) ミニスロット
DOCSISの上りにおいて、CMに割当てられる送信枠をミニスロット(Minislot)と呼ぶ。各CMは、1回の送信タイミングごとに1つまたは複数のミニスロットが割当てられ、バースト状の送信波を送信する。DOCSIS 3.1のミニスロットは、時間軸Kシンボル、周波数軸Qサブキャリアより構成される(図 2‑14)。表 2‑5に示すように、シンボル数Kはモード(FFTサイズ)およびシステムの帯域幅により最大値が規定され、サブキャリア数Qはモードにより一定(8または16)である。
図 2‑14 DOCSIS 3.1のミニスロット構成図
表 2‑5 DOCSIS 3.1ミニスロットパラメータ
ミニスロット内のサブキャリアはすべて同じ変調を用いるが、送信タイミングごとに変調多値数を変更可能である。
(2) FEC(上り)
DOCSIS 3.1上りFECは、下りと異なり、QC-LDPC(Quasi-Cyclic LDPC)を用いる。QC-LDPCは簡易な繰り返し行列を利用するもので、CMのハードウェアを簡素化することが可能である。上りFECのパラメータを表 2‑6に示す。
表 2‑6 DOCSIS 3.1上りFEC
CMはCMTSから通知されるgrant(送信許可)に基づき、ミニスロットを埋めていくが、この時、最初にLongコードを使い、残りビットにLongコードが入らない時はMediumコードを用い、最後にShortコードでミニスロットを満たす。
図 2‑4のDOCSIS 3.1のシステム要件に示したOFDMチャンネル間、QAMチャンネル間、およびOFDM/QAMチャンネル間でボンディングが可能である。
下りでチャンネルボンディングを行った時の最大容量(MAC容量)を表 2‑7に示す。ただし、OFDMを4システム(192MHz×4)以上運用するためには一般にHFC帯域の拡張が前提となる。
表 2‑7 下りチャンネルボンディング時の最大容量(MAC容量)
上りでは、OFDMAとQAMチャンネル間のボンディングが可能である。
この場合、TaFDM(Time and Frequency Divising Multiplexing:時間周波数分割多重)を用いてOFDMA/QAMチャンネルが同じ帯域を共用する。これは、図 2‑15に示すように、QAMチャンネルの送信ミニスロットとOFDMAのフレームを同期させ、さらにQAMチャンネルが利用しない周波数にOFDMAミニスロットを割当てることにより時間軸および周波数軸で帯域を共用する技術である。
図 2‑15 上りチャンネルボンディングのTaFDM
HFCネットワークを発展させ、数Gbpsの上下対称速度のサービスを実現する手法として、海外のケーブル業界では2つの異なるアプローチが出現した。
Full Duplex(FDX)DOCSIS(Node + 0 の構成でのみ対応可能)
周波数多重(FDD)DOCSISを1.8GHzまでスペクトル拡張(ESD)
(Node + 0 以外の構成でも対応可能)
この手法の相違がCATV関連ベンダの混乱を招き、半導体の要件や市場化時期の不確かさから設備投資を躊躇させる事態に発展していった。この事態を収束させるため、米国CableLabsではベンダおよび会員各社とともに選択肢の明確化と統一を進め、DOCSIS 4.0の仕様を新たに策定している。
DOCSIS 4.0においては、次に示すように技術的一本化が行われる。
FDX と 1.8GHz FDDの両機能をサポート
統合MAC (例 D4.0 MAC) 要件を単一仕様化
統合PHY (例 D4.0 PHY) 要件を単一仕様化
DOCSIS 4.0半導体は、すべての要件をサポート
ケーブルモデム(CM)用半導体の設計に影響を与える要件定義を合意
Ø 下り: OFDM 5ch、 単一キャリアQAM 32ch
Ø 上り: OFDMA 7ch、 A-TDMA 4ch(オプションで8ch)
Ø FDXと 1.8GHz FDDの両要件定義をサポート
DOCSIS 3.1では下り10Gbps、上り1Gbpsが限界とされるが、米国CableLabsでは上り・下り対称の10Gbpsサービスを可能とするFDX(Full Duplex)が検討され、DOCSIS 4.0で規格化された。これまでのDOCSIS 3.1とは異なり、下り帯域はそのままに、上り帯域拡張が可能である。FDXでは108〜684MHz間で上り・下りのOFDM信号を同時に使用する。このため、信号間干渉をキャンセルする技術(エコーキャンセリング)が必須となる。干渉は同一CM内や既存CMに対してだけでなく、ノード経由もあるためエコーキャンセリングはFDXにとって必須の技術である。
図 2‑16にCMTS、CMそれぞれから見たFDXチャンネルの使われ方と信号間干渉の概念を、図 2‑17にFDXシステム間、既存システムへの干渉を示す。
図 2‑16 FDXでのTDD技術の使われ方と信号間干渉の概念
図 2‑17 FDXシステム間、既存システムへの干渉
図 2‑18にFDXケーブルモデム(CM)における干渉の状況を示す。
この状況を踏まえ、DOCSIS 4.0では以下の手順によりFDXの周波数割当と干渉除去を行う。
i) 同じCMの上りと下りはFDX帯域(108〜684MHz)内の異なる周波数を割当てる。
ii) CMの上り送信信号に付随する帯域外スプリアス信号の自身の受信機への回り込み(隣接チャンネルへの漏れ・干渉)はエコーキャンセラで除去する。
iii) CMの上り信号が他のCMの下り信号受信に干渉するか否かを事前に検証し、干渉するCMのグループを干渉グループ(IG)と定義する。あるCMが送信中は、そのCMが属するIG内の他のCMに、同じ周波数を下り用に割当てない。
iv) CMTSは図 2‑16にも示すように常時、全帯域を上り・下り同時に利用するので、エコーキャンセラで干渉を除去する。
図 2‑18 FDX CMにおける干渉
FDXのCMは非FDXのDOCSIS 3.1 CMとの混在運用が可能となっている。図 2‑19はDOCSIS 3.1システムとFDXの併用を示す。この図は、FDXノードにおいて108MHz〜204MHzで全二重通信ができることを示している。
図 2‑19 DOCSIS 3.1システムとFDXの併用
図 2‑20にDOCSIS 4.0における1.8GHz 帯域拡張FDDにおける上下分割周波数を示す。
上り周波数は684MHzまで拡張可能で、684〜834MHzのガードバンドを挟んで、834〜1218MHzまでの384MHzと1794MHzまでの576MHz、合計960MHz帯域幅を下り周波数として利用する。
なお分割周波数を高くする程、ガードバンド帯域幅が大きくなる点に注意が必要である。
図 2‑20 DOCSIS 4.0における1.8GHz帯域拡張 FDD用CMの上下分割周波数の例
光伝送の形態は、光ファイバをヘッドエンドからどこまで敷設するかによって大きく4つに分けられる。図 2‑21のように光ノードまでをHFC(Hybrid Fiber Coaxial)、高出力ミニノードまでをFTTC(Fiber To The Curb)、各住戸までをFTTH(Fiber To The Home)、集合住宅の共用部までをFTTB(Fiber To The Building)と呼ぶ。
HFCは、屋外伝送路が光ケーブルと同軸ケーブルで構成される。同軸ケーブル区間には5〜7段の増幅器が接続される。FTTCは、屋外伝送路が光ケーブルと同軸ケーブルで構成され、HFCのネットワーク形態との差は少ないが、加入者宅の近くに高出力ミニノードを設置し、同軸ケーブル区間に増幅器を置かない方式である。FTTHは、屋外伝送路がすべて光ケーブルで構成され、戸建住戸のようにそれが契約住戸への敷設となる方式である。FTTBは、屋外伝送路がすべて光ケーブルで構成されるが、集合住宅のように建物への引き込み後契約住戸までは建物の同軸ケーブル等の既設配線で伝送する方式である。
図 2‑21 光伝送の形態
光伝送においては、図 2‑22に示すとおり光ファイバ1芯の上に、片方向の放送と双方向通信を波長多重して伝送する。使用する波長は放送が1,555nm、通信が下り1,490nm、上り1,310nmである。ケーブルテレビ局では放送と通信を別にした2芯を用いることも多いが、その場合でも波長は同じである。
放送の信号は、電波と同じく変調波であり、その点は同軸ケーブルでの伝送信号と同じであるが、FTTHでは伝送周波数帯域が2~3GHzと広く、BSや110度CSのIF伝送が可能である。通信の信号は、“1”“0”のデジタルデータである。
図 2‑22 FTTHにおける放送と通信の多重化
光伝送を構成する機器は、局内装置の通信OLT(Optical Line Terminal)と、宅内装置のD-ONU(Data-Optical Network Unit)である。
また、放送用には、局内装置として電気・光変換装置(RF光変調器)が、宅内装置としてV-ONU(Video-Optical Network Unit)がある。光伝送はこれら機器とPON(Passive Optical Network)方式の伝送技術を使って行われる(図 2‑22参照)。
OLTからONUへの下り方向通信には、TDM(Time Division Multiplexing:時分割多重化)技術が用いられる。TDMは複数のONUへの信号を、時間的に重ならないように多重化して伝送する技術である。下り信号は光スプリッタで分岐され同一のPONに繋がるすべてのONUに同じ信号が転送される。そのため各ONUへは他のONU宛のデータも転送される。各ONUは自己宛てのデータだけを抽出し、他のONU宛データは廃棄する。
ONUからOLTへの上り方向通信には、TDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)技術が用いられる。複数ONUからの上り信号が光スプリッタで合波されるため、各ONUからの信号が無秩序に送信された場合、伝送路上で衝突を起こす可能性がある。TDMAはONUのデータ送信タイミングと送信量を制御し上り信号の衝突を回避する多重化技術である(図 2‑24参照)。
図 2‑23 PONによる双方向通信
図 2‑24 上り信号衝突回避
E-PON(Ethernet-PON)では、ONUがPONに接続されるとOLTはそのONUを自動的に発見し、ONUにLLID(Logical Link ID)を付与して通信リンクを自動的に確立する。この機能をP2MPディスカバリと呼ぶ。P2MPディスカバリ中に、OLTは該当ONUとの間のRTT(Round Trip Time:フレーム往復時間)測定を行い、またONUはOLTとの時刻同期を行う。RTT測定および時刻同期はその後も定期的に行われ、線路条件の変化などによりズレが生じた場合には随時補正される。
なお、システム長である20km以内にONUが存在するため、その20kmの光到達時間は光ファイバ内の波長短縮率によって約0.1msになり、その往復時間からRTTは0.2ms程度以下と推測される。
複数のONUからの上り信号が光スプリッタで合流し衝突しないようにE-PONではOLTが司令塔の役割を務め、各ONUに対して送信許可を通知する。これにより各ONUからの上り信号を時間的に分離し衝突を回避する。(図 2‑24参照)
送信許可の通知は、具体的には「GATE」と呼ばれる制御フレームをOLTから各ONUへ送ることにより実現する。GATEフレームには、そのONUに対する送信開始時刻と送信量(いつの時点からどれだけの上り信号を送ってよいという情報)が収容されていてONUはその指示にしたがって上り信号の送信を行う。
なお、IEEE802.3ahでは各ONUへの上り信号送信許可方法は規定されているが、各ONUへの帯域の割当(送信開始時刻と送信継続時間の計算)方法については規定されていない。
PONの通信方式は標準化されており、これまで、ITU-TによるG-PON(Gigabit PON)とIEEEによるE-PON(Ethernet PON)の標準化が進められてきたが、これらに加え新たな団体(25GS-PON MSA, 米国CableLabs, Open XR optics Forum)でも標準化が行われるようになった。
ITU-Tは国際電気通信連合の通信分野の標準を策定する機関である。IEEE(the Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)は電気工学・電子工学技術の学会であり、IEEE802.3会合でイーサネット(光伝送を含む)の標準を策定した。25GS-PON MSA(Multi-Source Agreement)は、ITU-Tが標準化を見送った25Gbpsの規格を策定するために創設された団体である。Open XR optics Forumと米国 CableLabs はコヒーレントPONの標準化を行っている。
光伝送規格の進化を図 2‑25に示す。
図 2‑25 光伝送規格の進化
G-PONは、G-PON以前のB-PON(Broadband PON)との整合性を保ちつつ高速化したものであり、今までの通信の基本である電話網との整合性から8kHzで同期させている。また、可変長GEM(G-PON Encapsulation Method)フレームとATMセルをまとめたGTC(G-PON Transmission Convergence)フレーム(125μs:8kHz固定)で構成され、電話、データ、専用線などの通信サービスを収容することができる。
E-PONは、今までの電話網との整合性よりIP網との整合性をとり、イーサネット(Ethernet)フレームのままで伝送する。現在は高速化されたGE-PON(Gigabit Ethernet-PON)が利用されている。
光伝送規格G-PONとGE-PONならびにその高速化である10G-EPONとXG-PONの伝送フレームなどの概要を表 2‑8に示す。更に10Gbps超の標準化概要を表 2‑9に示す。
表 2‑8 G-PONとE-PONの概要
一方、IEEEでは、2004年に1G-EPON(IEEE802.3ah、下り1Gbps/上り1Gbps)、2009年に10G-EPON(IEEE802.3av、下り10Gbps/上り10Gbps)が標準化された。また、2020年に25G-EPON(IEEE802.3ca、下り25Gbps/上り25Gbps)と50G-EPON(IEEE802.3ca、下り50Gbps/上り50Gbps)が標準化された。
表 2‑9 Over10G PONの標準化概要
伝送速度について、E-PONでは、光強度変調で伝送可能なようにイーサネットフレームの直流成分(“1”と“0”発生頻度に依存)を低減する8-10変換を用いた。そのため、実伝送速度は規格(下り1.25Gbps/上り1.25Gbps)の0.8倍(下り1Gbps/上り1Gbps)となっている。G-PONの伝送速度は、下り/上りの組合せ(下り/上り:1244.16Mbps/155.52Mbps、1244.16Mbps/622.08Mbps、1244.16Mbps/1244.16Mbps、2488.32Mbps/155.52Mbps、2488.32Mbps/622.08Mbps、2488.32Mbps/1244.16Mbps、2488.32Mbps/2488.32Mbps)となっている(参照:Table 1/G.984.2 – Relation between parameter categories and tables)。これらはGEMフレームやGTCフレームのヘッダー部分のロスは含まない物理速度を記載しているが、CTCダウンストリーム38880Byteで、GTCフレームヘッダー(ONU数で可変:ONUを64と仮定)548ByteとCEMフレームヘッダー5Byteを考慮しても、各フレームヘッダーは約1.4%である。また、G-PONはイーサネット、公衆回線やATM(Asynchronous Transfer Mode)網や専用線が利用できるなど多くの機能を有している。
このようにG-PONはイーサネットフレームのままで伝送するE-PONと比較すると、通信速度・光損失・分岐数ともに優れ、E-PONと同じ2004年に標準化されているにもかかわらず、当時の通信事業者には採用されなかった。その理由として、上記のような機能の多さから開発期間が長いことや、製品が高価となると予測され敬遠されたと見られる。
光ファイバの光波長は、伝送損失が低減できるよう技術開発され、1980年に約1300〜1700nmで−0.5dB/km以下が規格化されて今日に至っている。その内、通信用(PON)には上り1310nm(1260〜1360)、下り1490nm(1480〜1500)が、放送用(下りのみ)には1555nm(1550〜1560)が割当てられた。特に、ONUに内蔵する半導体レーザでは、製品化が可能なファブリ・ペロー・レーザ(Fabry-Perot lasers:ファブリ・ペロー共振器(反射鏡の間)に閉じこめられて発光する原理)が複数の波長で発光するという特性を考え、1260〜1360 nmと広い波長領域が設定された。
その後、高速化(G-PONの10Gbps)検討に際して、「Enhancement band」が追加規定された。それによれば、上記の1260〜1360nmをRegularとし、DFB lasers(Distributed Feedback lasers:分布帰還型レーザ:半導体レーザを構成するN型とP型半導体のうちN型半導体の回折格子によって単一波長のみが発光する原理)を対象としたReduce波長(1290〜1330nm)とCWDM等の波長選択レーザを対象にしたNarrow波長(1300〜1320nm)が割当てられた。その結果、1GbpsのG-PONで上りにDFB laserを使用すれば、10GbpsのXG-PONで上り波長に1270nm(1260〜1280)を使って伝送することができ、OLT側ではG-PON Reduce波長とXG-PONで上り波長とをWDMフィルタで分離できることとなった。E-PONやFabry-Perot laserを使用したG-PONでは1260〜1360nmと同じ波長帯域を使う可能性があるため、OLTからの指示でONUの上り発光を時間分割制御するTDMが必要となる。
図 2‑26 G-PONとE-PONの光波長
上記のとおりPONの通信方式は、伝送フレーム形式などのデータリンク層と光波長の物理層などの標準化が進められ各種製品が利用されてきたが、機器構成や制御手順などの仕組みを決めている上位層の標準化が詳細には行われていなかったため、他社製品との相互接続ができていない。それを解決すべく、ITU-TとIEEEでさらなる標準化活動と相互接続実験が進められている。その流れを表 2‑10に示す。
表 2‑10 PON標準化活動
G-PONでは、G.984.4で、OLTがONUの動作を管理制御するためのインタフェースが規定されてはいたが、設計に使えるレベルで管理制御手順などを細かく規定したガイドラインG.Imp.984.4(Implementer’s Guide for ITU-T Rec. G.984.4)が策定されたことにより相互接続が可能となった。また、G-PONとXG-PONの両標準を対象としたG.988(ONU management and control interface (OMCI) specification)が策定され、その両標準の家庭端末であるONUが制御可能となった。また、その相互接続性の確認のために、Broadband Forum(BBF)で相互接続実験が行われており、BBFのホームページにはその認証プログラムや、相互接続できた製品(ONU)が提示されている。BBFの接続試験は以下の仕様が規定されているが、相互接続試験仕様に基づく認定の実績はない。
Ø 適合性試験仕様(BBF.247 G-PON ONU Certified Products)
ITU標準仕様に対するONUの適合性を認定する試験
Ø 相互接続試験仕様(TR.255 GPON Interoperability Test Plan)
異なるベンダのOLT-ONU間の相互接続性を確認する試験を規定
GE-PONでは、IEEEにP1904.1 Working Groupが設置され、SIEPON(Standard for Service Interoperability in Ethernet Passive Optical Networks)と呼ばれるGE-PONの相互接続性のための検討が進められ、2013年6月に米国でのケーブルテレビ利用を対象としたPackage A(ケーブル)、日本のNTT仕様を基本としたPackage B(日本)、中国市場を意識したPackage C(中国)が仕様化された。現在はPackageごとに認証プログラムを検討している。Package Aを検討してきた米国では、DOCSISケーブルモデム運用のバックオフィスの各種サーバなどをPONでも活用できるDPoE(DOCSIS Provisioning of EPON)が米国ケーブルラボで仕様化された。その制御コマンドはPackage Aと整合している。さらにDPoG(DOCSIS Provisioning of GPON)も仕様化された。DPoEは、各種機器が認証されて、米国ケーブルラボのホームページで公表されている。また、Package B(日本)は、NTTを中心とする一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が事務局となって複数メーカーの10G-EPON機器の相互接続実験を進めている。
日本ケーブルラボでは、異ベンダのOLT-ONU間の相互接続を実現するため、国内のケーブル事業者向けのE-PON相互接続運用仕様(JLabs SPEC-027 1.1版)を策定した(図 2‑27)。また同仕様に対応した認定試験を、2017年8月より開始した。
PON相互接続の階層である、物理層とデータリンク層については、IEEE 802.3ah、IEEE 802.3avの規定を準拠する。上位層である運用/管理/メンテナンス層ではDPoE/SIEPON Package Aから相互接続に必要なコマンドを規定している。
図 2‑27 E-PON相互接続運用仕様
また、G-PONについても相互接続運用仕様について検討を行った。
G-PONは下位階層には国際標準があり、準拠機器間の接続性は高いが準拠のルール化は必要である。上位階層にも共通規格はあるが、個別の項目の採用可否はベンダの仕様によるため、相互接続は事業者の要望により、事業者とベンダが協調して個別に対応していた。従って、上位階層の内、運用/管理/メンテナンス層の必要な監視制御用コマンドを統一することが有益である。
G-PON相互接続の階層である、物理層とTC層については、G.984、 G.987、 G.9807、 G.989の規定を準拠する。上位層である運用/管理/メンテナンス層ではOMCI(G.988)から相互接続に必要なコマンドを規定する。E-PON相互接続仕様との大きな相違はレイヤ3に関する監視機能が追加されていることである。なおG-PON相互接続運用仕様(JLabs SPEC-036 1.0版)は2017年12月21日に完成し、認定受付を2018年1月より開始した。
EPONの1Gと10Gの混在運用のためのイメージを図 2‑28に示す。ユーザ1は1Gbpsの双方向通信、ユーザ2は10Gbpsの双方向通信、ユーザ3は上り1Gbps、下り10Gbpsとしている。ヘッドエンドには上り1Gbpsと下り10Gbpsの信号を制御するOLTがあって、下りは別波長(1Gbpsは1490nm、10Gbpsは1577nm)でユーザ宅のONUへ、上りは1Gbpsと10Gbpsとが同じ波長となるためユーザ1から3の上り信号を別の時間で割り当てる時分割制御を行う。この時分割制御は同じ光ネットワークユーザ光スプリッタ)に接続しているユユーザ御と同じである。
図 2‑28 GE-PONと10GE-PONの混在運用
NG-PON1(Next Generation-PON 1)はGE-PONとの共存(光スプリッタをベースとした既設光ネットワーク用いる)を要求条件として検討され、XG-PON(ITU-T G.987)となっている。
さらなる高速化(40Gbps程度)を目指すNG-PON2(Next Generation-PON 2)では、既存方式との共存を要求条件とせず新技術を利用する。2014年12月ITU-T G989.2でTWDM-PON(Time and Wavelength Division Multiplex - PON)とPtP WDM-PON(Point-to-Point Wavelength Division Multiplexing – PON)の2方式が規定された。
TWDM-PON(Time and Wavelength Division Multiplex - PON)の光波長領域は、上りが1500-1550nm、下りが1580-1600nmで、各波長は10Gbpsで4波を割当てる(図 2‑29参照)。
図 2‑29 さらなる高速化(40Gbps)NG-PON2の光波長
この光伝送において波長多重伝送する光の波長間隔は、DWDMでは光周波数ごとに規定されており、193.1[THz]を中心に12.5GHz、25.0GHz、50.0GHz、100GHz・・・間隔の周波数(1、600nm付近の波長では、50GHz間隔は約0.4nm間隔、100GHz間隔は約0.85nm間隔、200GHz間隔は約1.7nm間隔)である。CWDMでは波長を多重・分離するフィルタの中心波長が20nm間隔で規定されている。なお、DWDMはITU-T G.694.1で、CWDMはITU-T G.694.2で規定されている。
2020〜30年には同軸ケーブルでの通信速度が限界に達し、通信サービスはHFCのDOCSISからFTTHのPONに移行すると見られているが、それを段階的に行うために有効な方式として次のようなものがある。
@ HFC高度化(次世代HFCとも呼ばれる小セル化・1GHz程度への帯域拡大)
A RF+PON(通信サービスを光ケーブルとGE-PONに切り替える)
B RFoG(伝送ネットワークのみを光化する)
C PONとHFCの混在(並列)運用
これらを組み合わせて伝送設備の投資を平準化することも可能である。
そのほか米国では、DPoE(DOCSIS Provisioning of EPON)が仕様化されているが、ここでは@〜Cそれぞれの方式について説明する。
HFC高度化はDOCSIS3.1を主軸とするものである。(DOCSISの記述参照)
図 2‑30のとおり、HFC高度化方式の設備構築には、通信用局設備のCMTSおよび家庭端末のCMを、共にDOCSISの3.0から3.1に変更する必要がある。
図 2‑30 HFC高度化方式(DOCSIS 3.1)
RF+PONシステムは図 2‑31に示すように、光ファイバケーブルを新たに敷設し、DOCSISのセンター設備や宅内端末設備は使わずに、GE-PONによる通信サービスを行う方式である。通信サービスには、下り信号に光波長1490nmを、上り信号に光波長1310nmを用い、局に設置されるOLTと家庭に設置されるONUとの間では、Ethernetフレーム形式の信号にONU制御などの情報を付加し、光の強弱で通信する。ただし、HFCネットワークでこれまで使用していた宅内端末(CM内蔵STB、CM、EMTA)が利用できなくなる。
放送サービス(下り信号)には光波長1555nmを用いる。光伝送の周波数帯域が広いことからBS-IF信号のパススルーによる再放送が可能である。映像は今までどおり集合住宅内の同軸ケーブルが使える。
RF+PON方式(FTTH)の追加設備としては、局設備の通信用OLTと放送用光送信機・FTTH伝送路(光ファイバ)・家庭用の通信用D-ONUと放送用V-ONUを追加する必要がある。
図 2‑31 RF+PONシステム
RFoGシステムは、光ファイバケーブルを新たに敷設するが、DOCSISのセンター設備や宅内端末設備をそのまま活用する。したがって通信設備の投資を平準化してFTTH化を進めることができため、RF+PONシステムへの一つの移行手段と位置付けることができる。
ただし、通信サービスの今後の高速化需要に対応するには、双方向で100Mbpsあるいはそれ以上の伝送速度が必要であり、それにはRFoGは適していない。PONの通信を最初から導入する必要がある。
RFoGシステムは図 2‑32に示すように、同軸ケーブルの下り上りの信号を各々光に割り当てる。下り信号には光波長1555nmを、上り信号には光波長1610nmを使う。
RFoG方式(伝送路FTTH)に必要な設備としては、局設備の光送受信機、FTTH伝送路(光ファイバ)、家庭端末のR-ONUでありすべて追加する必要がある。
図 2‑32 RFoGシステム
HFC・FTTHデュアルフィードシステムは、放送サービスをHFCで、通信サービスをFTTH(PON)で提供するシステムである。
なお、HFCの同軸アンプへの給電機能が残ることに付随してケーブルWi-Fiの屋外アクセスポイントへの給電機能も残ることになる。
HFC・FTTHデュアルフィードシステムを図 2‑33に示す。
HFC+PON(デュアルフィード)方式に必要な設備は、放送用には既存のヘッドエンド設備、HFC伝送路および家庭内のテレビであり追加を要しないが、通信用には局側のOLT、FTTH伝送路(光ファイバ)、家庭端末のD-ONUでありすべて追加する必要がある。
PONによって通信を高速化する方式であるため、双方向STBをCM内蔵型からLAN端子対応型に変更する必要がある。ただし、既存のDOCSISによる双方向STBへの提供を継続する場合には、双方向STBの変更は必要としない。
図 2‑33 HFC・FTTHデュアルフィード
デュアルフィード方式は、HFCの高度化(小セル化)を併用する場合と併用しない場合とで違いがあるので、それぞれを図 2‑34および図 2‑35に示す。
小セル化を併用した場合には、光ノードにOLTを入れるなどして柱上設置が可能になり、OLTを収容するためのサブセンタ数を減らすことができる。また、OLT-ONU間の距離が短くなり光ファイバによる損失が減る(光波長1,310nmにおいて10kmで約5dB)。ただし、OLTの柱上設置については電柱共架条件による。
図 2‑34 小セル化併用のデュアルフィード
図 2‑35 小セル化併用のないデュアルフィード
HFC、RFoG、HFC・FTTHデュアルフィードなど、HFCからFTTHへの高度化方式の選択に際し考慮すべき要点を表 2‑11に示す。
表 2‑11 HFCからFTTHへの高度化方式の選択
上表の適性のあるエリアに関し補足する。
@ HFC方式(DOCSIS 3.1)は既存の放送(RF)に合わせて通信をDOCSIS 3.1に高度化する方式であり、DOCSISの局設備CMTSと各家庭内にあるCMの交換が必要である。通信の高速化が図れるため、長期利用可能なHFC地域かつインターネットが主流の地域において適性を有する。
A RFoG方式(伝送路FTTH)は伝送路のみをFTTH化する方式であり、既存の放送(RF)と通信のDOCSISはそのままとし、局設備の末端(FTTH伝送路の境界)に光送受信機を、各家庭端(FTTH伝送路の境界)にR-ONUを追加するのみであるので通信の高速化は図れない。老朽化したHFC地域でかつインターネットが主流ではない地域において適性を有する。
B HFC+PON(デュアルフィード)方式は放送を既存のHFCで提供しつつ通信をPON(FTTH)で新規構築する方式であり、局設備にOLTを、伝送路にFTTHを、各家庭端(FTTH伝送路の境界)にD-ONUを追加する必要がある。PONによる通信の高速化が図れるため、再放送ユーザが主流のHFC地域であって新規インターネットユーザの獲得あるいはインターネット増速希望の高い地域において適性を有する。
C RF+PON方式(FTTH)は一般的なFTTH方式であり、局設備にOLTと放送用光送信機を、伝送路にFTTHを、各家庭端(FTTH伝送路の境界)にD-ONUとV-ONUを追加する。PONによる通信の高速化と放送(RF)の提供が図れるため、老朽化したHFC地域でかつインターネットが主流の地域において適性を有する。
一戸建て住宅については、HFC伝送路の帯域拡張やPON等による1Gbpsの高速化が実現されようとしているが、集合住宅の通信高速化については決め手となる手法がなく、それが集合住宅比率の高い地域における光化を遅らせる要因となっていた。
ケーブル伝送路の通信速度の高速化のためには、HFC伝送路では、既存のDOCSIS 3.0や変調・誤り訂正技術を高度化したDOCSIS 3.1があり、FTTH伝送路ではITU-T標準のG-PONとIEEE標準のE-PONがあることは先述のとおりである。
FTTHによる伝送路の高速化は、集合住宅内においてそれに見合う高速化が実現することが理想であり、そのためには各家庭まで光ファイバで直接接続しなくてはならないが、既存の集合住宅内には同軸ケーブルが配線されている現状があり、既設の配管等を介して各戸まで光ファイバを配線するのは困難である。また、集合住宅内ではツイストペアケーブル(電話線)の利用も可能だが、ケーブル事業者が慣れ親しんでいる同軸ケーブルによる高速化の可能性があり、それを有効活用することも必要になる。今までの技術で、集合住宅内の配線状況により採用できる集合住宅内の通信技術比較を
表 2‑12に示す。
なお何等かの理由で同軸ケーブルを利用できない場合には、電話線による高速な棟内通信方式も利用可能である。
表 2‑12 集合住宅内の在来通信技術比較
今までの同軸ケーブルを利用したDOCSIS 3.0は、高速伝送、双方向伝送、安定伝送、既存同軸ケーブルを流用可能などの利点はあるが、帯域の確保(特に上り帯域の確保)や上り/下り速度の均等化に難点がある。
そこで、対象の集合住宅がすでにHFC等により双方向化されている前提で、また、集合住宅まではPONや専用線などで伝送すること、集合住宅で上り/下り信号が終端(上り流合雑音も削減)すること、下り放送信号以外の信号はないこと、上り帯域は全帯域集合住宅内で利用可能であることを前提に、DOCSIS 3.0、DOCSIS 3.1、C-DOCSIS利用のEoC(Ethernet over Coax、同軸ケーブル利用による通信速度高速化技術)など集合住宅高速化技術についてその適否や実効性を検討した。
その結果、C-DOCSIS利用のEoCは既存端末(ケーブルモデム)が利用可能であることや、現状帯域(上り10〜55MHz/下り70〜770MHz)でも、上り100Mbps(64QAM×4ch@6.4MHz)、下り300Mbps(256QAM×8ch@6MHz)が可能であることは分かった。詳細を以下に説明する。
EoCは、広義にはEthernet信号を同軸ケーブル内に伝送する技術を意味し、電力線利用のHP AVや電話線利用のHome PNA等からの派生技術もこれに含まれるが、本節では上り下りの周波数帯域を分けて使用し、ケーブルテレビとの親和性が高いC-DOCSISについて述べる。
C-DOCSISは、2014年8月29日にC-DOCSIS System Specification“cm−SP−CDOCSIS- I01-140829”として米国ケーブルラボにより初版が公開された。その後、第2版(I02)が2015年3月5日に公開されている。また、DOCSIS 3.0 Operations Support System Interface Specification(CM-SP-OSSIv3.0)の最新版(I25)も同日発行され、Annex S Additions and Modifications for Chinese Specificationが追加されている。
C-DOCSISは“China DOCSIS”や“Cabinet DOCSIS”とも呼ばれ、集合住宅の通信高速化のため、集合住宅のMDF室等に設置するCMTSと、棟内の同軸ケーブル経由で各家庭のケーブルモデムとが通信を行う方式である。CMTSを小型化かつ安価にしたものがCMC(Cable Media Converter)であり、ケーブル局に設置されてCMCを制御する装置をCMCコントローラと呼ぶ。その利用例を図 2‑36に示す。
C-DOCSISでは、ケーブルモデムと管理装置(プロビジョニング)等は現在のものをそのまま利用しながら、集合住宅に新たにCMCを設置・調整することにより高速化が可能となるため、運用負担が少ない。集合住宅の棟内だけでなく柱上等にも設置可能な機器が製品化(一例:Huawei MA5633)されている。放送信号は、光変調器から光ファイバによって伝送し、集合住宅内や柱上の装置でCMC出力のDOCSIS信号と混合することが可能である。
図 2‑36 C-DOCSISの利用例
厳密には、CMCコントローラとCMCの機能をどのように分担・実装するかにより、C-DOCSISには次の3種類がある。そのアーキテクチャの概念を図 2‑37に示す。
Type 1(Mini CMTS) CMTSのほぼすべての機能をリモート側に置く。
Type 2(Remote MAC-PHY) CMTSのMAC層以下の機能をリモート側に置く。
Type 3(Remote PHY) CMTSのPHY層の機能のみをリモート側に置く。
図 2‑37 C-DOCSISの3種類のアーキテクチャ
リモート側のCMCは、Type 1が最も複雑で高価、Type 3が最も簡易で安価になることが想定されるが、保守・運用も含めての総合判断が必要である。
日本ケーブルラボの集合住宅通信高速化検討WGはCNCIで製品試作機(Huawei MA5633)を用いたC-DOCSISの実証実験を行った。そこで得られた通信速度の測定結果を表 2‑13に、実験系統図を図 2‑38に示す。この実験では上り65〜80Mbps、下り280〜360Mbpsが得られている。
表 2‑13 集合住宅(居住者なし、事務所などとして利用)での通信速度測定結果
|
信号条件 |
測定結果:通信速度 |
上り信号 |
SCDMA:6.4MHz×3波+3.2MHz×1波 全64QAM |
80Mbps |
ATDMA:6.4MHz×2波+3.2MHz×2波 全64QAM |
65Mbps |
|
下り信号 |
8MHz(Annex A)×8波 全256QAM |
360Mbps |
6MHz(Annex B)×8波 全256QAM |
280Mbps |
図 2‑38 集合住宅(居住者なし、事務所などとして利用)での実験統計図
実用化が進められているC-DOCSIS以外にも、集合住宅における伝送には利用可能な候補方式がいくつかあるので、それらを紹介する。
Home PNAは、元々は家庭内の電話線等を利用するメガビットクラスの伝送方式として開発され、その後開発されたG.hnがギガビットクラスの速度に対応している。伝送媒体としては同軸ケーブルも利用可能であり、集合住宅向けソリューションとして製品が発売されている。
本項では両方式の概要および集合住宅向けソリューションについて解説する。
Home PNA(Home Phoneline Networking Alliance)は家庭内の電話線を利用した宅内伝送を推進する団体として設立され、2001年にITU-T勧告G.989.1が策定された(その後、2005年にG.9951に改称)。同軸ケーブルを利用可能な技術規格はHome PNA 3.1 over Coaxと呼ばれ、2007年1月にITU-T G.9954のv2として勧告化された。変調方式としてQAMもしくは低シンボルレートではFDQAM(Frequency Diversity QAM)を採用し、最大伝送速度320Mbpsが得られる。
表 2‑14にHome PNAの進展、また図 2‑39にHome PNA 3.1(G.9951)のスペクトルモードを示す。
表 2‑14 Home PNAの進展
規格 |
ITU-T勧告 |
制定時期 |
物理層速度 |
備考 |
Home PNA 1.0 |
- |
1998年 |
1Mbps |
|
Home PNA 2.0 |
G.9951 |
2001.2 |
32Mbps |
旧名称G.989.1 |
Home PNA 3.0 |
G.9954 |
2005.2 |
128Mbps |
|
Home PNA 3.1 |
G.9954 |
2007.1 |
320Mbps |
同軸に対応 |
図 2‑39 Home PNA 3.1(G.9954)のスペクトルモード
G.hn(hn: home network)は、Home PNAのギガビット版の位置付けで、建物内の同軸ケーブル、電話線、電力線という3つの既存配線を利用できる統一的な伝送方式の確立を目的に策定された技術仕様(ITU-T勧告群)の総称である。このうち物理層はITU-T G.9960(Unified high-speed wireline-based home networking transceivers - System architecture and physical layer specification)に規定されている。G.hnの物理層速度は最大2Gbps程度(200MHz帯域を使用した場合)であり、半二重通信(TDD)を行う。
G.hn関連のITU-T勧告群の一覧を表 2‑15に、また、同軸ケーブルを利用する場合の使用周波数範囲(TTC標準JT9960に規定)を図 2‑40に示す。
なお、2009年1月に勧告化されたG.9970は、ホームネットワークの伝送概念(G.hnta: home network transport architecture)を規定するもので、その対象は、G.hnのみならず、Home PNA 3.1(G.9954)およびHD-PLC(IEEE 1901)も含む。
表 2‑15 G.hn関連勧告群
勧告 |
レイヤ |
勧告制定時期 (最新版) |
規定内容 |
G.9970 |
ネットワーク層 |
2009.1 |
ホームネットワーク伝送概念規定(G.hnta) |
G.9961 |
データリンク層 |
2015.7 |
データリンク層規定 |
G.9962 |
2014.10 |
管理規定 |
|
G.9960 |
物理層 |
2015.7 |
システムアーキテクチャと物理層 |
G.9964 |
2011.12 |
スペクトル管理規定 |
図 2‑40 G.hn用周波数帯(TTC標準JT-9960)
上記4つの帯域(A、B、C、D)の一部はBS-IFを伝送等の目的で利用されているため、ケーブルテレビで利用する場合には、それぞれの局における周波数利用状況に合わせて既存のサービスと干渉しない周波数を選択する必要がある。
Home PNA 3.1およびG.hnを同軸ケーブル上で利用する場合の物理層規定概要を表 2‑16に示す。
表 2‑16 同軸ケーブルを用いるHome PNA 3.1およびG.hn(ITU-T G.9960)
規定項目 |
Home PNA 3.1 (同軸) |
G.hn (同軸) |
周波数範囲 |
4〜36MHz (モードD) (図4-26参照) |
2〜100MHz、他 (図4-27参照) |
最大伝送速度 |
320Mbps (32MHz、10bit/Symbol) |
1Gbps (100MHz帯域幅) 2Gbps (200MHz、TDD) |
変調方式 |
FDQAM/QAM |
OFDM(QAM) |
誤り訂正 |
CRC-8 |
LDPC-BC (Low Density Parity Check Code-Block Code) |
最大接続台数 |
|
32 (オプションで250)台 |
集合住宅内の既存の同軸ケーブルを利用してMDF〜各加入者宅を接続する製品で、Home PNA 3.1 over Coax/G.hnに準拠するものとしてHNCAと呼ばれる製品がある。同製品でC-6と呼ばれるモデルはHome PNA 3.1準拠、C-7、C-8はG.hn準拠である。表 2‑17に最新のC-8の製品仕様を示す。
表 2‑17 HCNA製品仕様(G.hn準拠)
製品モデル |
CEM-837(親機)、CEM-831(子機) |
子機最大接続台数 |
30台以下 (推奨) |
メーカ |
SENDTEK(台湾) |
変調方式 |
OFDM |
使用周波数帯 |
6-76MHz |
伝送速度 |
1Gbps(理論値)、750MHz+(実効値) |
出力値/許容減衰 |
6dBm / 70dB |
最大接続MAC数 |
1024 |
親機接続ポート |
SFP x 1 & GbE x 2 |
子機ポート(LAN側) |
GbE x 2 (インターネット、電話) |
IP |
IPv4/IPv6 |
電源(親機) |
12VDC、Line Power、PoE |
DHCP Support |
Client、Relay Option 82、Snooping |
認証方式 |
PPPoE、RADIUS、EAP-TLS |
Auto Configuration |
可(親機、子機) |
使用周波数帯域の上限がFM再放送帯域と近接するため、混合分波器の利用が必要となる。HCNA Master機器は混合分波器を内蔵しており、V-ONUの出力を”TV”端子に入力することにより本機能が利用できるが、HCNA故障時にTVが停止することを防ぐため、図 2‑41に示す機器接続例では、V-ONUからのRF放送波出力とBSパススルー信号とHCNAの出力信号を外部の混合分波器で合成している。この場合、HCNAの出力信号が余分にカットされるため、本来の周波数をすべて通すには、HCNA(親機)側にて混合するか、特注フィルタを内蔵した混合器等が必要になる。
図 2‑41 HCNA接続例
G.hnの採用にあたっては以下の点に注意を要する。
ケーブルテレビの上り帯域をTDDで利用するため、棟内設備に上り方向のアンプが存在する場合には利用できない(下り方向の信号が通らない)
C-DOCSISに比べ親機の価格が安い反面、子機の価格がDOCSISケーブルモデム(CM)と比較して高額である。このため、加入者数によっては、総合的なコストがC-DOCSISを上回る場合がある。
表 2‑18に集合住宅の通信高速化の検討理論的概算値を示す。「既存HFC」では、ケーブル局に設置したDOCSIS 3.0を利用し、集合住宅にCMTSの1Portを割当てる。集合住宅内の既存同軸ケーブル(上り10〜55MHz/下り70〜770MHz)を利用する場合の通信速度は、上り20Mbps(16QAM@6.4MHz)/下り160Mbps(256QAM@6MHz×4ch)となる。
また、「集合住宅内同軸ケーブル」の利用ケースでは、集合住宅まで光化されて「同軸ケーブル内に上り信号なし、下り通信信号なし」とした上で、既存設備(現状)では上り/下り周波数変更なしで利用、双方向アンプ改修1と双方向アンプ改修2では、更なる高速化方策として「上り/下り周波数変更と帯域拡張」を行うと仮定した。
なお、BS-IF帯域(1032〜1489MHz)は集合住宅での利用が多く、通信では利用しないものとする。
表 2‑18 集合住宅の通信高速化の検討(通信速度は理論的概算値)
|
既存HFC |
集合住宅内同軸ケーブル(上り信号なし/下り通信信号なし) |
||
既存HFC設備 上り10〜55MHz 下り70〜770MHz |
既存設備(現状) 上り10〜55MHz 下り70〜770MHz |
双方向アンプ改修1 上り10〜85MHz 下り108〜1002MHz |
双方向アンプ改修2 上り10〜204MHz 下り258〜1032MHz |
|
DOCSIS 3.0 |
上り20Mbps 16QAM @6.4MHz×1ch 下り160Mbps 256QAM @6MHz×4ch |
上り210Mbps 64QAM @6.4MHz×7ch 下り320Mbps 256QAM @6MHz×8ch |
上り330Mbps 64QAM @6.4MHz×11ch 下り1280Mbps 256QAM @6MHz×32ch |
同左 |
C-DOCSIS |
|
|||
DOCSIS 3.1 |
上り300Mbps 256QAM @45MHz×1ch 下り800Mbps 1024QAM @96MHz×1ch*** |
上り300Mbps 256QAM @45MHz×1ch 下り800Mbps 1024QAM @96MHz***×1ch |
上り500Mbps 256QAM @75MHz×1ch 下り1600Mbps 1024QAM @192MHz×1ch |
上り1280Mbps 256QAM @96MHz×2ch 下り3200Mbps 1024QAM @192MHz×2ch |
サービス条件 |
FMなど提供可
BS-IF提供可 |
既存と同じく FMなど提供可
BS-IF提供可 |
FMとVHF1〜3ch 提供不可
BS-IF提供可 |
FMとVHF1〜3ch、MIDc13〜21ch、 VHF4〜12ch、 SHBc22〜27ch 提供不可 BS-IF提供可 |
【注】周波数帯域
・DOCSIS 3.0/C-DOCSIS:上り5〜85MHz/下り108〜1002MHz
・DOCSIS 3.1:上り5〜204MHz/下り108〜258MHz(SHOULD)、
258〜1218MHz(MUST)、1218〜1794MHz(MAY)
***6MHz×16ch分の帯域を利用する場合
【注】C-DOCSIS
・C-DOCSIS:Type1(Mini-CMTS)の複数の製品が発売中
集合住宅のMDF〜各部屋の間には、通常、電話サービスへの利用を前提としたメタル線(ツイストペア)が敷設されており、この電話サービスと共存する形でインターネットアクセス用の伝送技術が用いられている。メタル線を利用する代表的な有線アクセス技術としてADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line: ITU-T G.992.1、G.992.2、G.992.3、G.992.4、G.992.5)があるが、集合住宅棟内では上り下り対称通信に利用されるVDSL(Very high bit rate DSL: ITU-T G.993.1、G.993.2、G.993.5)が商用化されている。VDSLを発展させた最近のメタルアクセス技術はG.fastと呼ばれ、ITU-T SG.15で勧告化されている。また、次の高速化の規格はMGfastと呼ばれ、2020年に物理層が制定された。
表 2‑19にADSLから始まったメタル系アクセス技術の進展を示す。
表 2‑19 メタル系アクセス技術の進展
規格名称 |
ITU-T勧告(物理層) |
勧告制定時期* |
速度(下り/上り)(bps) |
ADSL |
G.992.1 |
1999.7 |
6M/640k |
ADSL 2+ |
G.992.5 |
2003.5 |
16M/800k |
VDSL |
G.993.1 |
2004.6 |
52M/2.3M |
VDSL 2 |
G.993.2 |
2006.2 |
100Mbps |
G.fast |
G.9701 |
2014.12 |
上り下り合計1G (106MHz) |
MGfast |
G.9710 |
2020.2 |
上り下り合計5G (424MHz) |
*勧告制定時期は初版の制定年月
G.fastはVDSL2に続くメタル線アクセス技術として、ITU-T SG15において勧告G.9700(電力スペクトル密度仕様)および勧告G.9701(物理レイヤ仕様)として2014年に承認された。G.fast関連のITU-T勧告群の一覧を表 2‑20に示す。
表 2‑20 G.fast関連勧告群
勧告 |
レイヤ |
勧告制定時期 |
規定内容 |
G.997.2 |
保守・運用・管理層 |
2015.5 |
OAM (Operation, Administration, Maintenance)規定 |
G.994.1 Amd4 |
データリンク層 |
2014.12 |
G.fast向けコンポーネントの規定 (ハンドシェーク規定) |
G.9701 |
物理層 |
2014/5 |
物理層規定 |
G.9700 |
2014/12 |
周波数およびPSD規定 |
G.fastは、図 2‑42に示すように2〜106MHzまでの帯域を利用し、将来的には212MHzまで拡張される予定である。G.fastの電力スペクトル密度(PSD)は、既存のVDSL等との共存を考慮したものとなっているが、干渉を完全に避けるためにはVDSLが利用する30MHzまでの帯域でサブキャリアをオフとする運用を行う。この場合、伝送容量が最大で30%失われることになる。
図 2‑42 G.fastの利用周波数とPSD
VDSLとG.fastの仕様比較を表 2‑21に示す。
G.fastの物理層の変調方式は、DMT(discrete multi-tone)に分類される方式であり、ITU-T勧告G.993.2のVDSL2と類似しているが、高速化を図るために1キャリアに割り当てるビット数を12ビットとしている。現在の勧告G.9701においては、VDSL2の最高30MHzを上回る最高106MHzまたは212MHzまで使用するプロファイルが規定されている。しかし、後者は多くの項目が継続検討となっており、現在商用化されている製品は最高106MHzのプロファイルを使用している。また、VDSL2との共存を実現するために、最低周波数は2.2、8.5、17.664もしくは30MHzに設定可能な仕様となっている。
G.fastの複信方式は、VDSLやVDSL2のFDD(frequency-division duplexing)とは異なりTDD(time-division duplexing)を採用している。上下方向の速度比(下り/上り)は、90/10から30/70まで設定可能となっている。
誤り訂正符号は、トレリス符号とリード・ソロモン符号が採用されている。さらに、クロストークによる性能劣化を抑制するために、遠端漏話を自動的にキャンセルするベクタリング技術(一種のエコーキャンセラ)が採用されている。なお、ベクタリングは束ねられたメタルケーブル全体を対象に行うため、同じ線路(束)を利用する区間で複数のG.fast親機を同時に利用することはできない。言い換えると、すでに先行事業者がG.fastを導入済の集合住宅においては、後発の事業者がG.fastを導入することはできない。
ITU-TにおけるG.fastの改定審議では、伝送媒体として同軸ケーブルを使用して上限1GHzまで帯域拡張することも検討されている。
表 2‑21 VDSLとG.fastの仕様比較
|
VDSL |
G.fast |
仕様名称(勧告名) |
VDSL (17a) (ITU-T 993.1) VDSL2 (30a) (ITU-T 993.2) |
G.fast (ITU-T G.9701) |
使用周波数帯 |
〜12MHz (17a) 〜30MHz (30a) |
2~106MHz (2~212MHz:将来製品化) |
最大伝送レート (上り下り総和) |
実効30-80Mbps 150Mbps (17a) 250Mbps (30a) |
1Gbps (100m未満)* 500Mbps (100m実線路) |
変調方式 |
OFDM |
OFDM |
サブキャリア数 |
4K |
2K (106MHzプロファイル) |
多重化方式 |
FDD |
TDD |
下り/上り比率 |
固定 |
可変(90:10~30:70) |
シンボルレート |
~250μs (17a) |
~20μs |
ベクタリング |
ITU-T G.993.5 |
ITU-T G.9701 |
送信出力 |
14.5dBm |
4dBm (a)、8dBm (b) |
FEC |
RS + Trellis |
RS + Trellis |
注: VDSLの17/30は帯域の違い、G.fastのa/bは送信出力の違い
*G.9701でターゲットとする上り・下り伝送速度(合計)は以下のとおりである。
距離 性能目標(上り+下り)
100 m未満 500〜1000 Mbps
100 m 500 Mbps
200 m 200 Mbps
250 m 150 Mbps
500 m 100 Mbps
G.fastはVDSLと同様に、集合住宅の棟内あるいは屋外キャビネット等にDSLAM(Digital Subscriber Line Access Multiplexer)に相当する分配点ユニットDPU(Distribution Point Unit)を設置してユーザを収容する。基本的な構成を図 2‑43に示す。
図 2‑43 G.fastを利用する棟内接続構成図
G.fastはVDSLの後継方式と目され、その導入はVDSLをすでに導入している事業者において親和性が高い。具体的には、G.fast親機がVDSL子機とも接続可能で、段階的な移行が可能なこと、価格がVDSLと同額程度であること、設計や設置工事がVDSLと大きく変わらないこと等が挙げられる。
これまでの分配スプリッタを用いたFTTH構築とは異なり、海外でシステムの低廉化などを目的とした検討が行われ、かつ一部の国ですでに導入しているアンイーブンスプリッタを用いたFTTHシステムの構築をはじめとする、新たなソリューションについて説明する。
ただし、今回紹介するソリューションは、単純に資機材のコストを比較すると高くなるかもしれないが、今後FTTHへの切り替えを検討する場合、現場での光ファイバの融着回数が削減できるなどの労務観点のコストメリットがあるため、ケースバイケースで総合的に判断する必要がある。
これまで日本では、FTTHシステム構築における光ファイバケーブルの接続は、ほぼ100%融着で行われていた。一方海外では、融着のスキルを持った作業者を確保するのが難しく、プラグ&プレイで施工のスピードを上げるコネクタソリューションが喜ばれていて、コネクタのみ、あるいはコネクタ+融着(幹線系のロスを減らすなど目的を限定した利用)という組み合わせが、徐々に使われはじめている。ただし、幹線ラインから光ファイバーの取り出し位置(ドロップ箇所)を事前に調査して確定する必要がある。コネクタソリューションに使用されるターミナルの例を以下に示す。
図 2‑44 ターミナルの仕組み
出典:コムスコープ社 Leveraging fiber indexing technology
図 2‑44 では、代表的な例として12芯の場合を示し、この時の仕組みを以下に記載する。
@ 前段(左側)に設置されているファイバ分配ハブ(図中に記載なし)から12芯の
光ファイバケーブルがターミナルに入るところから始まる。
A ターミナル内部でファイバが分岐し、先頭のファイバ1からの信号が1:4または
1:8スプリッタ(黒端子)に送られ、地域の顧客にサービスを提供する。
B 残りの光ファイバ(2〜12)は「インデックス」(順番を1つ進めること)され、
12光ファイバはMFOC(Multi-Fiber Optical Connector:多芯光コネクタ) を使って結合される。
C 12芯の光ファイバケーブルは、次の端末(第2インデクシングターミナル)に接続され、インデクシングプロセスが繰り返される。
ここで、防水MPO(Multi-Fiber Push On)コネクタ付きターミナルを用いたデイジーチェーンの構成例を図 4-32に示す。最大で12台のインデクシングターミナルを直列にチェーン接続が可能で、防水MPOコネクタ付きの多芯ケーブルにより、プラグ&プレイの接続を完全防水で行うことができる。
図 2‑45 防水MPOコネクタ付きデイジーチェーン
出典:コムスコープ社 FTTH プラグ&プレイソリューション
本コネクタソリューションの展開コンセプトを図 2‑46に示す。効果的な設計を行うための最初のステップとして、設置シナリオの基本的な構成要素、およびターミナルの構成を決定するパラメータを定義することが重要になる。図 2‑46のターミナル(1〜12)の配置とターミナルからの配信を受ける住宅の戸数が、これに該当する。これらのパラメータが設定されることで、現場を担当する設計チームは、定義されたビルディングブロックを繰り返すだけで、プラグ&プレイでのネットワークを構築することができるようになる。
図 2‑46 コネクタソリューションの展開コンセプト
従来のFTTH構築では、1芯のスプリッタ入力に対して、同じ光のパワーで分岐するバランススプリッタ方式を採用している。(図 2‑47)
図 2‑47 従来のFTTH構築
一方、新しいFTTH構築ソリューションとして紹介する分配光タップ(アンバランススプリッタ)方式によるFTTH構築は、1芯の光ファイバのみで幹線のネットワークが構成され、必要な各ポイントで光パワーを有効にタップして、ロスバジェットが使い果たされるまでタップが可能となる方式である。(図4-35) このアンイーブンアーキテクチャは、HFCシステムのタップオフを用いた配信形態に相当する。また、分配光タップ間や住宅へのDropケーブルについてもコネクタ付きケーブルを使用する。
本構築方法により、融着なしで短期間の施工が可能となり、従来方式より少ない光芯線でFTTHが構築できる。
図 2‑48 分配光タップを用いたFTTH構築
使用される分配光タップの内容を図4-36に示す。ここでは、9:1の非対称で光パワーを分配する例である。9がThru用で1がDrop用である。なお、分配光タップは複数の分配比率に対応した製品がある。(表 2‑22)
図 2‑49 分配光タップ
表 2‑22 分配光タップの分配比率例
出典:コムスコープ社 Application
Guide_ Leveraging fiber optical tap technology
海外では、MDUにおいても融着接続ではなく、コネクタソリューションが採用されている。この背景として、ビルのオーナーやテナントは日常生活への支障を最小限に抑え、できるだけ短時間での設置を望んでいて、FTTH導入に合意してからサービス提供まで、時間が非常に限られていることから、時間のかかる融着接続よりも、短時間で確実に施工できるコネクタ接続を採用することで、短納期でFTTHインフラが構築できる。
コネクタソリューションを利用した既存MDUに対するインフラの構築として、図4-37に例を示す。棟内の管路が利用できない場合、屋外壁面にこのコネクタ付きケーブルを敷設することで、縦系の配線として使用できる。このコネクタ付きケーブルは、工場出荷時に幹線となるケーブルから指定した間隔で分配ケーブルが枝分かれしている状態で納品されるため、インフラ設計段階に各階のフロア高(分岐間隔)や、外壁からの導入部からFDT(Fiber Distribution Terminal) までの距離(分配ケーブル長)を計算しオーダーすることにより、建物にぴったり合った部材として納品され、美しく施工を行うことができる。
横系ケーブルとして、各居室への引き込み、非常に目立ちにくいソリューション(透明なケーブル外皮)で美観を損ねない活用が可能である。
図 2‑50 MDUインフラ例
BWAは2008年に制度化された広帯域無線アクセスシステムを指し、自治体における一部の地域をカバーする「地域BWA」と全国をカバーする「全国BWA」がある。具体的なシステムとしてはAXGPとWiMAXがあるが、方式高度化によってTDD-LTEとの互換性が確保されている。図 2‑51に周波数割り当ての状況を示す。全国BWAはWireless City Planning社とUQコミュニケーションズ社が運用している。地域BWAは地域ケーブルTV事業者など99社が運用しているが、うち93社はTDD-LTEと互換性のある高度化方式を採用している(表 2‑23)。
図 2‑51 BWAの周波数割り当て状況
表 2‑23 地域BWAシステムの無線局開設状況
(https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/system/ml/area_bwa/002.pdfより)
地域BWAの用途は、行政等への河川監視映像の提供や災害時の緊急インフラ回線の提供あるいは加入者向けの高速無線通信サービスなどである(図 2‑52を参照)。
図 2‑52 地域BWAの用途例
4G(LTE)では光ファイバ並みの高速伝送(下り1Gbps程度)を目標とし,移動中の動画視聴さえも可能なシステムを実現した.5Gでは,この性能をさらに引き上げるeMBB(enhanced Mobile Broadband)なる特徴に加え,高信頼.超低遅延(URLLC;Ultra Reliable & Low Latency Communications)と,大量のデバイスと接続できるmMTC(massive Machine Type Communications)の3つを特徴とするシステムである.具体的には,表 2‑24に示すような要求条件下で規格が策定されている.その5Gの利用シーンは,3つの特徴を踏まえて図 2‑53のようなイラストでしばしば示され,社会のDX基盤として期待されている.
表 2‑24 5Gの要求条件
項目 |
要求条件(4G比) |
備考 |
ユーザの通信速度 |
1000倍 |
下り20Gbps,上り10Gbps程度 |
接続デバイス数 |
10〜100倍 |
1基地局あたり |
遅延時間 |
1/5〜1/10 |
無線区間で1ms以下 |
データ通信容量 |
1000倍 |
|
低消費電力デバイスの |
10倍 |
|
図
2‑53 IMTビジョン勧告における5Gの利用シナリオ及び要求条件
(総務省 令和2年 情報通信白書より)
5Gの商用サービスは、2018年から2019年にかけて始まった。最初の5G商用サービスは、2018年10月に米国Verizon社が固定無線サービスとして家庭向けに提供したことが最初とされています。12月には米国や韓国でモバイルルータの提供がはじまり、2019年4月以降は5G対応のスマートフォンによるサービスが始まった。日本では2020年3月27日にNTTドコモが最初の5G商用サービスを開始した。最初のサービスエリアは東京、大阪、名古屋、福岡の一部地域で提供されていった。その後、NTTドコモをはじめとする他の通信事業者も順次5Gの商用サービスを展開し、全国的に利用が拡大されている。ただし,現時点では次に述べるNSAとNAの二つの形態が混在している。
携帯電話システムは、端末と基地局で構成される無線アクセス網(RAN;Radio Access Network)と、コア網で構成されている。4Gのコア網をEPC、5Gのコア網を5GCという。コア網の機能は、ユーザーデータを扱うユーザープレーン(U-Plane)と、端末認証や移動無線回線の維持管理などを担う制御プレーン(C-Plane)で構成されている。4Gのコア網をEPC(Evolved Packet Core)、5Gのコア網を5GC(5G Core)といい、その構成や能力には違いがある。特に5Gの特徴である大量接続(mMTC)や高信頼低遅延(URLLC)を実現するため、制御プレーンの構成が大きく異なっている(表 2‑25,図 2‑54)。
表 2‑25 4Gと5Gの網構成の違い
|
無線アクセス技術 |
基地局 |
コア網 |
4G |
LTE |
eNodeB |
EPC |
5G (NSA) |
NR |
gNodeB |
NSA対応EPC |
5G (SA) |
NR |
gNodeB |
5GC |
図 2‑54 携帯電話システムのネットワーク構成概略
一方のRANにおいては、4Gの無線アクセス技術をLTE、その基地局をeNodeBと呼ぶのに対し、5Gの無線アクセス技術はNR(New Radio)、その基地局をgNodeBと呼ぶ。すでに完成されている4G網に5G基地局gNodeBを徐々に導入するにあたり、NSA(Non Standalone)という構成がとられている。これは、C-PlaneにLTE、U-PlaneにはNRとLTEを併用するものであり、gNodeBとeNodeBで構成されたRANとEPCベースのコア網で構成される(図 2‑55左)。この構成の場合、着信やハンドオーバーなどの制御はLTEで行いつつ、ユーザのデータ転送はNRによる高速大容量伝送(eMBB)が実現される。これに対してSA (Stand Alone)ではコア網を5GCとすることで5G本体の能力が生かされる(図 2‑55右)。
図 2‑55 NSAとSAの違い
国内の5Gが利用する周波数帯として、図 2‑56に示すように、Sub6(6GHz以下)の3.7GHz帯と4.5GHz帯、および準ミリ波帯の28GHz帯が割り当てられている。これらは上り方向と下り方向で同じ周波数を用いるTDD(Time Division Duplex)で利用される。5Gの周波数帯はnで始まる番号で区別されており、国内ではn77〜79とn258である。
図 2‑56 5Gの周波数帯(数値の単位はGHz)
また、4Gが利用する周波数帯はバンド番号で区別され、国内では図 2‑57に示す帯域が利用されている。このうちバンド42のみTDD、それ以外はFDD(Frequency Division Duplex)で使用されている。現在4G/BWAで用いられている、3.6GHz以下の周波数帯における5Gの導入(BWAについては5Gに対応した高度化)ができるように2020年8月に制度整備が行われた。その後、携帯電話事業者らの申請に応じて5Gへの高度化が進められている[3]。
世界周波数会議(WRC-19)において5Gに新たに利用できる周波数の議論が行われた。その結果を踏まえ、日本国内では、4.9〜5.0GHz帯、26.6〜27.0GHz帯及び39.5〜43.5GHz 帯の3つの帯域において既存無線システムとの共用検討等を今後実施することになっている。また、世界周波数会議(WRC-23)で検討予定の7025〜7125MHz について、割り当ての可能性が検討される予定である。日本では4.9〜5.0GHz帯は802.11j(登録制の無線LAN)に使われているため、5Gの導入にあたっては、既設のシステムに影響を与えないことが求められている[4]。
図 2‑57 4Gの周波数帯(数値の単位はMHz)
5Gシステムは携帯電話事業者が提供する公衆網にだけ利用されるものではなく、企業や土地の所有者が限られた範囲で独自の5Gネットワークを構築することができる。国内では、そのような目的のための周波数帯が用意され、無線免許に基づく利用が認められる。このような5Gの利用形態をローカル5Gという。アンライセンスバンドを用いるWi-Fiに比べて5Gの特徴を生かした無線通信が実現するとされている。例えば、低遅延や高速通信を生かして、組織内のデバイスやシステムがリアルタイムで連携し、高速かつ迅速なデータの伝送や処理を実現します。これにより、自動化やリアルタイム監視、制御システムの効率化などが期待される。また、大容量通信を生かして、組織内の多数のデバイスやセンサーがネットワークに接続され、大量のデータをリアルタイムで送受信することでIoT(Internet of Things)デバイスの管理やビッグデータの処理など、データ駆動型のアプリケーションやサービスも考えられる。
ローカル5Gは組織が独自に所有し運用するネットワークとなるため、組織は自身のニーズに合わせてネットワークを設計・管理することができる。これにより、セキュリティやプライバシーの管理、カスタマイズされたサービスの提供などが可能になる。特定の領域や要件に応じたカバレッジエリアの設定や、ネットワーク構成、セキュリティポリシーの定義などが自由に行える。これにより、組織の独自の要求事項に対応する柔軟性がある。
ローカル5Gの用途として、工場や倉庫でのネットワーク構築による工作機械や運搬機械などの遠隔操作や運用の自動化、あるいは物流管理や遠隔監視などが期待されている。また、集合住宅やキャンパスやスタジアムでのブロードバンドサービス、キャンパス内での学習支援システム、イベント会場での高速通信など、さまざまな応用も考えられている。
ローカル5Gの無線免許を受けられるのは企業や土地の所有者などであるが、ネットワークの構築や運用はネットワーク事業者やシステムインテグレータなどがサポートしてよいことになっている。
ローカル5G専用の周波数帯として、2020年に4.6〜4.9GHz及び28.3〜29.1GHzが新たに追加された。それまで28.2〜28.3GHzの100MHz幅しか利用できなかったところであるが、28GHz帯は既存と合わせて900MHz幅に拡大し、新たなサブ6(6GHz帯以下)の300MHz幅と合わせて1200MHz幅が用意されている。この追加により、それまでは28GHzのSA(Stand Alone)か、2.5GHz等のプライベートLTEバンドと組み合わせたNSA(Non Stand Alone)しかできなかったのが、サブ6のSAやサブ6と28GHzを組み合わせたNSAができるようになった[5]。
携帯電話システム(当初は自動車電話システム)は1980年に登場(電電公社が1979年12月に東京地区でサービスを開始)し、以後、おおむね10年毎に新たな世代のシステムが登場している。その観点では、B5G/6Gの導入は2030年頃が見込まれており、それに向けた取り組みが始まっている。国内では、Beyond
5G推進コンソーシアムが2020年に設立され、Beyond
5G推進に向けた総合的な戦略の検討などが開始された。2023年3月に発行されたB5Gホワイトペーパー第2版は次のような構成になっている。
・トラヒックトレンド:2030年頃に予想されるモバイルアプリケーションやユースケースからトラヒックの傾向を示している
・通信業界のマーケットトレンド:移動通信分野のマーケット動向、特に、スマートフォンや基地局等の通信インフラ設備のシェア構造の変化と、スマートフォン関連の構成部品の技術動向を示している
・他業界から得られたトレンド:現時点で世の中に存在するすべての業界における課題を洗い出し、課題解決案、業界としてあるべき姿や夢、さらには、Beyond 5Gに期待する性能や機能をまとめている
・Beyond 5Gで求められるCapabilityとKPI:4章の内容から、様々な業界での特徴的なユースケースを洗い出し、それぞれのユースケースで求められるBeyond 5Gの性能をまとめると共に、Beyond 5Gを象徴する図、6つの利用シナリオ、目標KPI(定量的、定性的)を示している
・技術トレンド:Beyond 5Gに求められる技術の動向について検討し、それらが利用者や市場に提供する機能・価値・果たす役割・期待などを明らかにしまとめている
また、NTTドコモでは、2020年にホワイトペーパー「5Gの高度化と6G」初版をリリースし、2022年11月に第5版へ更新された。KDDIは2021年にBeyond 5G/6G ホワイトペーパーを、ソフトバンクは2021年7月に「Beyond 5G/6Gのコンセプトおよび実現に向けた挑戦を公開」と題したプレスリリースの中で2030年のB5G/6Gの世界観とそれに向けた12の挑戦を発表している。
FWAは一般には固定無線局によるアクセス(多元接続)システムを指す。しかしながら狭義の意味合いでは、22/26/38GHz帯を利用する加入者系無線システムがFWA(固定無線アクセスシステム)に名称変更されていて、特にそれを指す場合もある。狭義のFWAでは、電気通信事業者側の基地局と複数の利用者側の加入者局とを結ぶ1対多方向型(P−MP;Point to Multipoint)と、電気通信事業者側と利用者側とを1対1で結ぶ対向型(P−P;Point to point)が定義されている。表 2‑26にその概要を示す。現在,22GHz帯FWAの高度化を図り,26GHz帯FWAを移行させる周波数再編が進められている[6]。
表 2‑26 22/26/38GHz帯FWA
|
22GHz帯 FWA |
26GHz帯FWA |
38GHz帯FWA |
周波数帯 |
22.0-22.4/22.6-23.0 |
25.25 - 27.0 |
38.05-38.5/39.05-39.5 |
占有周波数帯幅 |
58.5 MHz |
|
|
最大伝送速度 |
156 Mbps(P-P),10Mbps(P-MP) |
||
伝送距離 |
最大4km程度(P-P),半径1km程度(P-MP) |
固定もしくは半固定(ノマディック)で利用する無線アクセスシステムとしては、22/26/38GHz帯を利用するFWAの他に、5GHz帯無線アクセスシステムと18GHz帯無線アクセスシステムがある。その概要を表 2‑24表 2‑27に示す。
表 2‑27 5GHz帯/18GHz帯 無線アクセス
|
5GHz帯無線アクセス |
18GHz帯無線アクセス |
周波数帯 |
4.9 – 5.0 GHz |
17.7-19.7GHz (17.7-18.72 / 19.22-19.7 ) 電気通信,公共業務用 17.7-17.85 / 17.97-18.60 / 19.22-19.7 陸上移動業務の無線局 17.7-17.85 / 17.85-18.72 / 19.22-19.7 固定局 |
占有周波数帯幅 |
5,10,20,40 MHz |
36.5 MHz |
変調方式 |
OFDM |
|
最大伝送速度 |
150Mbps程度 |
156Mbps程度 |
伝送距離 |
〜3km程度 |
〜10km程度(対向方式) 〜2km程度(1対多方向方式) |
最大空中線電力 |
0.25W かつ |
0.5 / 1.0 W |
最大空中線利得 |
13dBi |
|
固定系無線システムはアクセス方式を伴わない伝送システムであり、その接続形態は通常1対1に限られる。長距離中継回線(固定マイクロ)やエントランス回線の用途で使用されている。表 2‑28にその概要を示す。
表 2‑28 固定系無線システム
|
6 GHz帯 固定通信 |
11/15/18 GHz帯 固定通信 |
周波数帯 |
5925 – 6425, |
10.7 – 11.7 /
14.4 – 15.35 / |
チャネル幅 |
|
36.5, 53.5 MHz (11/15GHz帯) |
伝送距離 |
〜60km程度 |
〜十数km程度 |
最大伝送速度 |
150Mbps程度 |
150Mbps |
無線局数 |
NTT東西など約400局 |
約12000局 |
備考 |
|
方式の高度化が答申されている(2021) |
CATV事業に用いられる無線システムとして23GHz帯無線伝送システムがある。これはケーブルテレビの周波数配列をそのまま23GHz 帯の電波に変換する振幅変調方式(FDM-SSB 方式)を用い、ケーブル敷設が困難な箇所に用いる。CATV事業者が利用可能な無線伝送システムは表 2‑29に示す3周波数帯がある。18GHz 帯の無線伝送システムは、ケーブルテレビ事業者が利用する場合には、電気通信業務用無線局の無線設備を共用するものに限定され、上り下りそれぞれ60MHz 幅の1ブロックを利用して最大9ch を伝送することができる。一方、60GHz 帯の伝送システムは、特定小電力無線局として個別免許は不要であるものの、出力が10mW 以下であることから伝送距離が200m 程度に限られている。23GHz 帯無線伝送システムは、400MHz の帯域があるため、18GHz に比べてより多くのチャンネル伝送が可能であり、また、60GHz に比べて長距離での伝送が可能である。
表 2‑29 ケーブルテレビ事業者が利用可能な無線伝送システム
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23GHz帯 |
18GHz帯 |
60GHz帯 |
主な目的 |
有線テレビジョン 放送事業用 |
電気通信業務用 |
特定小電力無線局 |
周波数帯域幅 |
400MHz |
上り下り各60MHz |
9GHz |
最大伝送 |
65CH |
9CH |
|
特徴 |
CATV多チャンネル放送の無線伝送 |
放送/通信同時伝送 |
ミリ波画像伝送用及びミリ波データ伝送用 |
利用シーン |
離島や山間部等のCATVネットワークエリアの拡大 |
・地デジ受信点から共聴施設までの中継伝送 ・離島や山間鄙への地域イントラネットの延長ルート |
ホームリンク(配線の無線化) |
メリット |
・60GHz帯と比較して、伝送距離が長い ・18GHz帯と比較すると、伝送CHが多くとれる。 |
・60GHz帯と比較して伝送距離が長い。 ・双方向通信が可能。 |
個別免許が不要。 |
デメリット |
ケーブルテレビの上り回線の伝送ができない。 |
・23GHz帯と比較すると、伝送CHが多くとれない, ・電気通信業務用無線局の無線設備と共用するものに限定。 |
・無縁局免許を受けていないので、混信を受ける可能性がある。 ・18GHz帯及び23GHz帯と比較すると、伝送距離が短い。 |
23 GHz帯無線システムの基本構成を表 2‑30に示す。無線局免許人はNHKやケーブルビジョンなど33局ある(執筆時)。現在、大容量化や双方向化などシステムの高度化が検討されている。
表 2‑30 23GHz帯無線システムの基本構成
無線局種別 |
固定局 |
汎用可搬型移動局 |
辺地用可搬型移動局 |
周波数 |
23.2GHz – 23.6GHz |
23.28GHz – 23.52GHz |
23.2GHz – 23.6GHz |
空中線電力 |
1W以下 |
0.5W以下 |
0.005W以下 |
チャネル数 |
65 |
40 |
65 |
伝送距離 |
パラボラアンテナ対向で5〜10km 1対多:30cmパラボラアンテナとセクターアンテナの対向で90°幅2km程度 |
パラボラアンテナ対向で5km程度 |
パラボラアンテナ対向で100m程度 |
アンテナ |
対向型:直径30cm以上のパラボラアンテナ相当 多方向:セクターアンテナ |
直径30〜60cmのパラボラアンテナ相当 |
直径10〜30cmのパラボラアンテナ相当 |
主な用途 |
有線伝送路の敷設が困難な地域への中継回線 |
災害時における応急復旧用伝送路 イベント時の番組素材中継伝送 |
地上デジタル放送の難視聴解消 |
LPWA(Low Power Wide Area)は低消費電力で広域をカバーする無線システムの総称である。端末のデータ転送速度や間欠受信の頻度を抑えることで長期間のバッテリー運用も可能となり、電源設備のない環境での遠隔監視や機器制御に用いるIoT(Internet of Things)やM2M(Machine-to-Machine)に適している。主なLPWAシステムを表 2‑31及び表 2‑32に示す。
表 2‑31 主なLPWA専用システム
|
LoRaWAN |
Sigfox |
ELTRES |
ZETA |
仕様 |
LoRa Allianceが定めた公開仕様 |
仏Sigfox社の独自仕様。後にシンガポール・台湾のUnaBiz SAS社が買収。 |
ソニーが開発した仕様 |
ZiFiSense社が提唱 |
網形態 |
公衆、自営 |
公衆 |
公衆 |
自営 |
事業者 |
株式会社ソラコム、他 |
KCCS(京セラコミュニケーションシステム株式会社) |
SNC(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社) |
|
周波数帯 |
920MHz帯 |
← |
← |
←+429MHz? |
周波数幅? |
125kHz |
100kHz |
200kHz |
|
通信速度 |
0.3〜50kbps / |
600 bps / |
最大80bit/分
|
0.3〜2.4kbps / |
変調方式 |
CSS |
|
チャープ信号 |
|
受信感度 |
|
|
-142dBm |
|
信頼性 |
再送制御 |
繰返し送信 |
4回繰返し送信 |
再送制御 |
ペイロード |
59〜230 Byte |
下り 8 Byte |
128bit (48bitはGNSS情報) |
8, 50 Byte |
通信距離目安 |
数km〜十数km |
最大数十km |
見通し100km |
|
|
|
国際ローミング可能 |
GNSS標準搭載 |
中継器を用いたマルチホップ通信が可能 |
表 2‑32 3GPPおよびIEEE802.11系のLPWAシステム
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NB-IoT |
LTE-M |
NR-RedCap |
IEEE802.11ah |
網形態 |
公衆 |
公衆 |
公衆 |
自営 |
周波数帯 |
(LTEバンド) |
← |
(5Gバンド) |
920 MHz帯 |
周波数幅 |
200kHz |
1.4MHz |
20MHz(FR1[7]) 100MHz(FR2) |
1 MHz /4 MHz |
通信速度 |
21.25kbps(DL) 62.5kbps(UL) |
800kbps(DL) 1Mbps(UL) |
150Mbps(DL) 50Mbps(UL) |
150kbps〜3.3Mbps(1MHz幅) / 15Mbps(4MHz幅) |
最大出力 |
200mW |
200mW |
200mW |
20mW |
通信距離目安 |
(セルラー) |
← |
← |
1 km (20mW) |
備考 |
カバレッジ拡張機能[8](23dB) |
カバレッジ拡張機能(15dB) |
半二重FDD(オプション) |
MIMO、マルチホップ対応。 |
表 2‑31に掲載している以外のLPWA専用システムとして、RPMAとFlexnetがある。RPMA(Random Phase Multiple Access)は米国サンディエゴのIngenu(アンジェヌ)社によって開発された独自方式である.Ingenu社はQualcomm社のエンジニアで構成され,2008年にOn-Ramp Wireless社として創設したが,2016年に今の社名に変更した.RPMAは世界共通のISM帯である2.4GHz帯を用い,利用周波数幅は1MHzで,直接スペクトル拡散(Direct-Sequence Spread Spectrum)を用いている.通信速度は31kbps(UL) / 15.6kbps(DL),通信距離はおよそ20キロメートルとされている.当初は自営網での利用のみであったが,2016年よりIngenu社が公衆網サービスを北米で手掛け,以後,Machine Network ™として北米の主要30都市以上をカバーしている.国内では2016年頃に長谷工グループが高圧一括受電事業で導入したGE製のスマートメーターがこの技術を採用していたがこの事業は2018年にNext Power社へ事業継承している[9].
FlexNetはSensus社の独自方式であり,2016年8月に水技術企業大手の米Xylemに買収され、現在はXylemのブランド名で提供されている.米国では基本的には901〜960 MHzの周波数帯を用いることになっているが,901〜902MHz帯のISMバンドの他に928〜960MHz帯のライセンスバンドをあえて利用することで確実な通信を目指すことも可能である.FlexNetは2016年8月、水技術企業大手の米Xylemに買収され、現在はXylemのブランド名となっている.伝送速度は双方向で100kbps程度,通信距離は5〜20kmである.米国と英国で水道・ガス会社のスマートメーターをつなぐビジネスに成功し,日本でも展開しようとしている[10].
Wi-Fiは、IEEE 802 LAN/MAN Standards Committee 配下の802.11 Wireless LAN 作業班が策定した規格に基づく無線システムであり、相互接続性(ベンダーが異なる機器であっても相互に接続できこと)を担保するために設立された業界団体であるWi-Fi Allianceが認定した無線機器によって構成される。最近の主なWi-Fi規格を表 2‑33にまとめた[11]。赤字は前の世代から更新されたパラメータを表している。
表 2‑33 Wi-Fiフルスペック規格(Wi-Fi HaLow™を除くSub6対応のみ)
略称 |
Wi-Fi4 |
Wi-Fi5 |
Wi-Fi6/6E |
Wi-Fi7 |
規格名 |
IEEE802.11n |
IEEE802.11ac |
IEEE802.11ax |
IEEE802.11be |
規格策定年 |
2009 |
Wave1: 2013, Wave2: 2016 |
2019 |
2024 |
周波数帯(GHz) |
2.4/5 |
5 |
2.4/5/6(6E) |
2.4/5/6 |
チャネル幅 |
20/40 |
20/40/80, 80+80/160 |
← |
20/40/80/ |
変調方式 |
64QAM |
256QAM |
1024QAM |
4096QAM |
OFDMA |
× |
← |
〇 |
← |
MIMO(最大) |
4×4 |
8×8 |
← |
16×16 |
MU-MIMO |
× |
下りのみ |
〇 |
○ |
ピーク伝送レート(ユーザ) |
600 Mbps |
3.5Gbps 6.9 Gbps |
9.6 Gbps |
46 Gbps |
特徴・新技術 |
HT ・channel bonding ・SU-MIMO ・MAC効率化 |
VHT ・MU-MIMO |
HE ・OFDMA ・BSS-Color ・DSCと電力制御 ・TWT |
・MLO ・Restricted TWT ・Multi-RU |
Wi-Fi4は、1ユーザ(STA)あたり54Mbpsをピーク伝送レートとする前世代(802.11a、802.11g)に対して、600MbpsのHT(High Throughput)を実現する。Wi-Fi4で採用された主要技術は、基本チャネル2チャネル分の帯域幅40MHzを1チャネルで使用するチャネルボンディングと、最大4ストリームを空間多重できるMIMOの採用であり、MACフレームのオーバーヘッド削減とあわせて約11倍のピーク伝送レートを達成している。ただしSU(Single User)-MIMOのみの採用であるため、同時に複数のユーザ(STA)に対して空間多重を提供できない。例えばSTAが2本のアンテナしか備えていない場合、APが4アンテナであっても最大の空間多重数は2となるため、伝送レートは空間多重しない場合と比べて2倍どまりである。しかし、MU(Multi User)-MIMOであれば、同時に複数のユーザの空間多重が可能となる。例えば、2アンテナのSTAが2台あり、それらが同時に4アンテナのAPと接続する場合には空間多重数はトータルで4となるため、全体のスループットがSU-MIMOと比べて向上する。
Wi-Fi5はVHT (Very High Throughput)を標榜し、Wi-Fi規格で初めてMU-MIMOを採用した。ただし下り方向(AP→STA)のみである。表 2‑33に示したように、Wave1とWave2の規格があり、チャネル合成時の最大帯域幅が2倍違っている。Wave2では最大で基本チャネル4つ分のチャネルボンディングができる。MIMOの最大アンテナ数拡張や256QAMの採用と相まって、Wi-Fi4に比べて約11倍のピーク伝送レートを達成している。また、MU-MIMOの採用によって全体の実効的なスループットも向上している。
Wi-Fi6は、ピーク伝送レートのさらなる向上よりも、どちらかというとHE (High Efficiency)、すなわち無線リソースの利用効率が向上する技術に焦点をおき、実環境での実効的なスループット改善を狙っている。アンライセンスバンドの無線リソースを利用するWi-FiはCSMA/CAを基本とする干渉回避の仕組みを備えるが、Wi-Fiの普及に伴う干渉の増大によって改善の余地が芽生えていた。
Wi-Fi6で導入されたBSS-Color[12]はBSS (Basic Service Set)を区別する6ビットの識別子である。BSS-Colorは無線フレームの始まりを示すプリアンブル部にあり、これを検知することで無線局はMACフレームを復号する前に自らが属するBSSからの信号か否かを素早く判断できる。このメリットの一つは、素早くスリープ状態に入ることで省電力につながることである。また、新たに導入されたDSC(Dynamic Sensitivity Control)・送信電力制御とBSS-Colorを組み合わせることで、異なるAPが隣接する状況(特に使用チャネルが競合する状況)で効果を発揮する。今、あるSTAが複数のBSSのエリアにいるものとする。Wi-Fi6の説明において、自BSS以外のBSSはOBSS (Overlapping BSS)と略される。従来の一般的なキャリアセンスでは、信号が未知の場合に-62dBm、IEEE802.11の場合に-82dBmを閾値とし、それを上回る受信電力がある場合にSTAはチャネルbusyと判定し、送信をせずに待機する。DSCではこの閾値をBSS-Colorに応じて変更する。具体的には、自BSSの場合は閾値を低く(OBSSの場合に閾値を高く)設定することで、OBSSからの干渉によってSTAの送信機会が少なくなることをある程度防ぐ。換言すれば、干渉信号をわざと「聞こえにくく」して送信する機会を増やすのである。一方、これを無条件に許容すれば、OBSSにとっては逆にSTAからの干渉によって通信を妨げられる。そこで、STAはオープンループ制御で送信電力を調整し、OBSSに与える干渉電力を一定レベル以下に抑えるようにする。具体的には、OBSSからの信号が強い(RSSIが大きい)場合はSTAの近くにOBSSがあると判断してそのSTAは送信電力を低くし、逆にRSSIが小さい場合は送信電力を大きくする。この制御は、BSS-Colorによって自BSSとOBSSを素早く区別できるから効果的に行える。つまり、プリアンブル部だけの受信でOBSSを区別できるから、必要のないMACフレーム全体を延々と受信する時間(と消費電力)の無駄を省けるのである。DSCによる全体のスループット改善量は条件により異なるが、文献[13]では10%前後の効果が示されている。なお、BSS-Colorは1から63までの値であり、離れた場所では再利用される。OBSSで同一のBSS-Colorが使用されている場合は、STAがAPに報告して自律的に調整する仕組みが用意されている[14]。
Wi-Fi6で導入されたOFDMAは1つのOFDMシンボル(複数のサブキャリアで構成されている)を複数のユーザ(STA)で共有するアクセス方式であり、4G以降のセルラーシステムでも採用されている。OFDMAでは、OFDMシンボルを構成する複数のサブキャリアをRU(Resource Unit)と呼ぶ単位に分割し、それぞれのRUを電波状態が最も適したユーザに割り当てる。これにより、各サブキャリアの利用効率(帯域幅あたりの実効スループット)が向上し、TDMAに比べてシステム全体の平均スループットを改善することができる。
Wi-Fi6はHEの他にIoTを意識した機能も導入されている。BSS-Colorも元はといえばSTAの省電力化を目的として802.11ahで最初に導入されたものである。他にも802.11ahにある省電力機能を生かしたTWT (Target Wake Time)がWi-Fi6に採用されており、APがSTA毎にスリープ状態を管理してきめ細かい電力管理を行うことができる。それまでの省電力機能はAPがSTAを一斉にスリープ解除する仕組みであった[15]。
多数のAPが隣接するOBSS 環境 (つまりdense operationな環境)下での効率運用に主眼をおいたWi-Fi 6に対して、Wi-Fi 7では伝送レートの向上に重点を回帰させている。その背景には、非常に広い帯域幅を有する6GHz帯の活用と、16K動画ストリーミングや高精細VR・ARでの利用が想定されている。さらに双方向アプリで深い没入感を得るためには低遅延特性が必要であり、また各端末の高速伝送をシステム全体でサポートするために周波数利用効率のさらなる改善も求められるであろう。Wi-Fi7は次に述べる技術を導入してこれらの要求に対処する。
まず表 2‑33図 2‑58に示すように、Wi-Fi7では、最大で基本チャネル16個分のチャネルボンディングを行うことができる。これは従来の2倍であり、現在の周波数プランでは6GHz帯でのみ利用できる。また、変調方式は最大で4096QAMが適用され、これによるビットレートの向上は1.2倍である。MIMOによる空間多重数も最大16と、従来比2倍である。これらによりピーク伝送レート(規格上の最大値)は約4.8倍の46Gbpsとなった。
Wi-Fi7の新たな機能としてMLO(Multi-Link Operation)がある。これは一対のAP-STA間において、同時に複数の周波数帯(2.4GHz / 5GHz / 6GHz)の複数チャネルを利用してデータの送受信を行うものである。同時に利用する複数のリンクで異なるデータを並列伝送して高速伝送を実現し、あるいは、同じデータを重複伝送することで信頼性が向する。後者の場合、複数チャネルが同時にbusyとなる頻度は単一のチャネルがbusyとなる頻度より一般には低く、よって遅延特性の改善も期待される。STRモードでは複数リンクを用いて同時に送受信が可能となり、送受信を交互に行う場合と比べて送信までの待ち時間が減少し、よって伝送遅延がさらに低減する。また、Wi-Fi 6で導入されたTWTを伝送遅延の低減に活用するRestricted TWTが新たに導入された。TWTではSTA毎にSP (Service Period;サービス提供期間)を設け、それ以外の期間ではそのSTAはスリープ状態となる。SPの期間は、SPが異なる他のSTAと競合することなくそのチャネルを利用できるので、Restricted TWTではそこにtime-sensitiveなトラヒックを割り当て、遅延ジッターの低減を図る。
また、周波数利用効率の向上を図る新たな技術として、Multi-RUやpreamble puncturingがある。Wi-Fi6で導入されたOFDMAは、ユーザ(STA)毎に一つのRUを利用するものであった。この弊害は例えば接続ユーザが少ない場合にすべてのチャネル帯域が利用されないことである。Wi-Fi7では複数のRUを同時利用できるMulti-RUが導入された。周波数軸上の離れたRUを同時利用することができるため、周波数ダイバシチ効果も得ることができる。preamble puncturingはWi-Fi6でオプション導入されていたがWi-Fi7で必須機能となった。例えばレーダーなどによって特定の周波数帯域が干渉を受けたときに、その帯域のみを除外して利用する機能である。puncturingの単位は20MHz幅である。従来は80MHz以上のチャネルボンディングの際に干渉を受けると、20MHz幅のPrimaryチャネルだけを使用し、それ以外のチャネル(帯域幅60MHz 以上)は使用できなかった。
Wi-Fi 7の次の世代となるWi-Fi 8を担う規格の検討班として、IEEE802.11bn UHR (Ultra High Reliability)-SG(Study Group)が2022年7月に設立され、PAR(Project Authorization Request)の委員会承認を経て2023年11月までにUHR-TG(Task Group)を立ち上げ、2028年リリースの予定となっている。その基礎となる考え方は、Wi-Fi 7で導入するMLO(Multi Link Operation)を生かした極めて高い信頼性の実現である。この背景として、人主体の利用から機器間の無線通信の需要を取り込む狙いがある。Wi-Fi 7に対する現時点での特徴(検討課題)は、@ 低SINRでの伝送レート、A移動時やエリアをまたぐ箇所での遅延やジッター、Bチャネルリユース、C電力消費とpeer-to-peer (1対1)の通信形態、となっている。
Wi-Fiが使用できる周波数帯は段階的に拡大されてきた。Wi-Fiの導入時から利用されている2.4GHz帯はISMバンドでもあるが、図 2‑58に示す通り、帯域幅83.5MHz(2.4GHz〜2.4835GHz)の中に20MHz幅の各チャネルがオーバーラップする形で13チャネルが定義され、さらに日本ではチャネル14が2.484GHzに定義されている。2.4GHz帯のWi-Fiチャネルが互いに干渉しないように(オーバーラップしないように)最大限に利用する場合は、チャネル1、6、11および14のみ利用する。ただし、チャネル14はIEEE 802.11g以降使用されない[16]。
図 2‑58 Wi-Fiが使用する周波数(2.4GHz帯)
Wi-Fiが使用する5GHz帯は、W52(5.2GHz帯)、W53(5.3GHz帯)、W56(5.6GHz帯)に分類される。図 2‑59に示すように、2005年5月の総務省令改正により、W52の4チャネル(#34,#38,#42,#46)の中心周波数が変更され、さらにW53の4チャネル(#52,#56,#60,#64)が追加された。W53はW52と同様に屋内での使用に限定される。また、W53を利用するアクセスポイントはDFS (Dynamic Frequency Selection)とTPC (Transmit Power Control)の機能を備える必要がある(DFSとTPCは後に述べる)。
図 2‑59 Wi-Fiが使用する周波数(5GHz帯)
次に2007年1月の総務省令改正により、W56に11チャネル(#100, #104, #108, #112, #106, #120, #124, #128, #132, #136, #140)が追加され、2019年7月にさらに1チャネル(#144)が追加された。W56はW53同様にDFSとTPCの機能を必要とするが、特筆すべきは、屋外での利用が可能で、かつ出力電力の許容値がW52/W53(eirp200mW以下)に比べて5倍(同1W以下)になっている点である。
続いて2022年9月の改正により、W52の自動車内利用と、6GHz帯の利用が認められた。W52はそれまで船舶と航空機を含む屋内利用しか認められていなかった。6GHz帯については、5.925GHzから6.425GHzまでの500MHz幅の範囲に24チャネルが導入された。その利用は、表 2‑34に示すように、W52の自動車内利用では従来の1/5(eirp=40mW以下)、6GHz帯の国内利用については、屋内に限定されるLPIクラスと、屋内外で利用できるVLPクラスの2種類が規定されている。LPIの送信出力はW52,W53(同200mW)と同等、VLPはその1/8(同25mW)である。6LではDFSが不要である.
Wi-Fi6Eには,もう一つのクラスであるSP (Standard Power)が規定されている.このクラスでは,DFSに替わる周波数共用の仕組みであるAFC (Automated Frequency Coordination )機能の下で最大1Wの出力が許容される.しかし日本国内では使用が認定されていない.このクラスのAPはAFC Systemに接続されており,使用したい周波数帯と送信出力をAPのIDおよび位置情報とともにリクエストすると,利用できるチャネルと送信出力が知らされる仕組みになっている[17].
表 2‑34 Wi-Fiが使用できる5GHz帯と6GHz帯の分類
略称 |
W52 |
W53 |
W56 |
6L |
周波数範囲 |
5150-5250 |
5250-5350 |
5470-5725 |
5925-6425 |
チャネル数 |
4 |
4 |
12 |
24 |
DFS |
不要 |
必要 |
必要 |
不要 |
屋外利用*1 |
×*2 |
× |
〇 |
VLPのみ〇 |
最大出力(eirp, 20MHzあたり) |
屋内:23dBm 車内:40mW |
23dBm*3 |
30dBm*3 |
LPI: 23dBm VLP:14dBm |
(*1:列車内・船舶内・航空機内は屋外ではなく屋内扱い)(*2:自動車内は利用可能)(*3:TPCが無い場合はこの半分)なお、機内を除く上空での利用は2.4GHz帯以外認められていない。
5GHz帯は気象レーダーも使用しており、Wi-Fiが干渉を回避するための機能としてIEEE802.11h にDFSが規定されている。DFSではまず、使用するチャネルにレーダー電波が居ないかどうかを一定期間(通常は60秒)傍受する。この確認をCAC (Channel Availability Check) と呼ぶ。CACをクリアしてチャネル使用を始めても、常にレーダー電波の検出は行わなければならない。これをIn-Service Monitoringという。In-Service Monitoring の期間にレーダー電波が検出されればすみやかに(10秒以内)電波の発信を停止しなければならず、そのチャネルは一定時間(30分以上)使用できない(CACでの検出の際も同様)[18]。
TPCは衛星通信との干渉を減らすために、アクセスポイントと端末の双方で送信電力を下げる機能である。DFSと同様、IEEE 802.11hで規定されている。しかし、必須機能は次の5項目であり、具体的な電力値の規定はない。TPC機能としては送信電力を変更する(適切な値に調整する)ことができれば良しとされているようである[19]。
DFS/TPC が実装されている STA および AP は、送信フレームの Capability Bit に Spectrum Management をセットすること。
AP および AdHoc モードの STA はビーコンおよび Probe-Response に Country IE および Power Constraint IE を含め、地域毎の最大送信出力値と低減要求値(Mitigation Requirement)を通知すること。
STA は AP に対する送信フレームに Power Capability IE を含め、送信出力調整可能範囲を通知すること。
STA および AP の送信出力は 地域によって定められた最大出力規定に従うこと。STA は AP から Mitigation Requirement 値が指示された場合、更にそのぶん送信出力を下げること。
AP および AdHoc モードの STA はビーコンおよび Probe-Response に TPC Report IE を含め、Link Margin=0, Transmit Power=自身の送信出力を通知すること。
なお、端末STAはアクセスポイントの許可なくW53、W56の電波を使用できないため、W53、W56帯のチャネルでAPをアクティブスキャンできない(プローブ要求を出せないので)。
IEEE 802.11ah(Wi-Fi HaLow™)は、携帯電話の分野ではプラチナバンドと呼ばれる1GHz未満のISM Bandを利用したWi-Fiの規格である.通常のWi-Fiに比べて伝送レートは低い(最大15Mbps)ものの,非セルラー系LPWA専用システム(表 2‑31参照)に比べれば比較的高く,IP親和性が高い。長距離の通信(1〜数km程度)も可能で,端末の消費電力を抑えることができる。諸元を表 2‑35に示す。
日本では2022年9月に11ahの利用が可能となった。国産11ah対応デバイスも登場し、山間部での鳥獣害対策のためのカメラ映像や、沿岸部での海洋監視などの商用機による実証試験が行われている。スマート農業や漁業、大規模工場や商業施設などで利用されるIoTデバイスやスマートシティといった分野での利用が期待されている。現在使用できる周波数は920.5〜928.1MHzであるが、今後、MCAシステムの周波数移行に伴い利用可能となる850〜860MHzと930〜940MHzの一部が追加される可能性もある[20]
表 2‑35 IEEE802.11ah 主要パラメータ
|
IEEE802.11ah (Wi-Fi HaLow TM) |
網形態 |
自営 |
周波数帯 |
920 MHz帯(920.5 – 928.1)アンライセンス |
チャネル幅 |
1 MHz /4 MHz |
通信速度 |
150kbps〜3.3Mbps(1MHz幅) / 15Mbps(4MHz幅) |
最大出力 |
20mW |
ギガビット級の高速伝送を実現するため、広い周波数帯が利用できるミリ波(主に60GHz帯)を用いる無線通信規格としてWiGig (Wireless Gigabit)が2009年にリリースされた。この企画は最大伝送速度7Gbpsを達成するもので、同年5月に結成された業界団体WiGigアライアンスがパソコンやその周辺機器での利用を想定して策定したものである。当時のWi-Fiの最新規格(Wi-Fi 4)では、最大伝送レートが600Mbpsであった。一方、IEEE802.11標準化作業班配下のadタスクグループにおいて無線LANのミリ波利用が検討され、ここにWiGigが採用される形で2012年にIEEE802.11adが策定された。なおWiGigアライアンスは2013年にWi-Fiアライアンスに統合されている。
802.11adのPHY仕様は表 2‑36に示すように4つある。OFDM PHYはオプションでありシングルキャリア(SC) PHYを必須とする。変調方式もQPSK以上はオプションとなり、シングルキャリアでは16QAMまで、OFDM PHYでは64QAMまでとである。必須仕様における最大伝送レートは1155Mbps、シングルキャリア仕様では4620Mbps (16QAM、符号化率3/4)、OFDM PHYでは6756.75Mbps(64QAM、符号化率13/16)と大きく異なる。
802.11ayでは、最大4チャネルまでのアグリゲーションと8ストリームまでのMIMO空間多重が可能である。最大次数の変調方式はシングルキャリアの場合で64QAM、OFDMの場合は256QAMになった。また、short GI(ガードインターバル)の導入により、実効伝送レートが向上する。例えば、シングルキャリアの場合、最大伝送レートは11adの4620Mbps (16QAM、符号化率3/4)から、8662.5Mbps(64QAM,符号化率7/8)になる。さらに前述のチャネルアグリゲーションと空間多重が適用されると、規格上のピーク伝送レートは277.2Gbpsになる。
表 2‑36 ミリ波対応Wi-Fiの諸元
規格名 |
IEEE802.11ad / WiGig |
IEEE802.11ay |
規格策定年 |
2009/2011 (WiGig 1.0/1.1) 2012 (802.11ad) |
2021 |
周波数帯 |
60 GHz (57-66GHz) |
← |
チャネル幅 |
2.16 GHz |
2.16/4.32/6.48/8.64 GHz (アグリゲーション) |
変調方式(最大次数) |
16QAM (SC PHY) 64QAM(OFDM PHY) |
64QAM (SC PHY) 256QAM(OFDM PHY) |
MIMO空間多重 |
なし(ビームフォームのみ) |
最大8ストリーム |
通信距離目安 |
|
← |
LAA(Licensed Assisted Access)とは、ライセンスバンドを用いるセルラーシステムが、無線LANもしくは無線LANが利用するアンライセンスバンドを活用してスループットを向上させるものである。この技術はLTE-Advanced (リリース10)で導入されたキャリアアグリゲーション(CA)と、2015年に設立した業界団体LTE-U Forumが策定したLTE-U(LTE-Unlicensed)がベースになっている。
キャリアアグリゲーションは複数のキャリアを束ねて高速伝送を実現する技術であり、主となるキャリア(Primary cell)に別のキャリア(Second cell)を合成して一つのリンクを構成する。またLTE-Uは、Wi-Fiなどの他の無線システムシステムが共用するアンライセンスバンドで動作するように、LTEの規格を改変したものであり、業界団体であるLTE-U Forumが2015年に策定した。しかしLTE-Uはキャリアセンスの仕組みを備えておらず、5GHz帯でのキャリアセンスが義務付けられているヨーロッパや日本では利用ができなかった。
LAAでは、ライセンスバンドのキャリアをPrimary cellが、アンライセンスバンドのキャリアをSecondary cellが使用し、どちらのセルでもLTEの無線規格を用いる。ただしLTE-Uと異なり、アンライセンスバンドにおいてはキャリアセンス(LBT;Listen Before Talk)が適用される。Primary cellの基地局はデータの分離・合成を担い、Secondary cellと連携する。リリース13(2016年)にて下り方向のキャリアアグリゲーションが規定され、リリース14(2017年)にて上り方向が規定された。CAとLAAの違いを図に示す。なおリリース13では、LAAの他に、LTEと無線LANをアグリゲートするLWA (LTE/WLAN aggregation)も規定されている。
3GPPリリース16では、5Gシステムにおいてアンライセンスバンドを利用するNR-Uが規定された。LAAと同様に、Primary cellではNRをライセンスバンドで使用し、Secondary cellでNR-Uを利用する形態(アンカー型)に加えて、NR-Uのみでの運用によるアンライセンスバンドの利用形態(スタンドアローン型)もサポートされている。NR-Uが想定する周波数帯は5GHz帯と6GHz帯であり、下りリンクで最大320MHz幅、上りで最大80MHz幅である。日本でのNR-U利用は現時点で認められていない。
Field Pick-up Unitとは、放送番組の映像や音声を現場からスタジオへ伝送するシステムである。国内では、表 2‑37に示す周波数帯が使用されている。
周波数呼称 |
周波数帯 |
局数 |
周波数幅 |
伝送 |
固定 |
移動 |
備考 |
1.2/2.3GHz帯 |
1240-1300MHz[60]/ 2330-2370MHz[40] |
117 |
18MHz |
145Mbps 10Mbps |
|
|
TDD双方向 |
Bバンド |
5.850-5.925GHz |
322 |
18MHz |
300Mbps |
50 |
4 |
偏波MIMO |
Cバンド |
6.425-6.570GHz |
2,492 |
|
|
|
|
|
Dバンド |
6.870-7.125GHz |
3,064 |
|
|
|
|
|
Eバンド |
10.25-10.45GHz |
2,191 |
|
|
7 |
3 |
|
Fバンド |
10.55-10.68GHz |
1,299 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
|
Gバンド |
12.95-13.25GHz |
5 |
↑ |
↑ |
5 |
3 |
↑ |
42GHz帯 |
41-42GHz |
4 |
125MHz |
210Mbps |
3-5 |
0.05 |
HDの非圧縮伝送 |
55GHz帯 |
54.27-55.27GHz |
3 |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
↑ |
120GHz帯 |
116-134GHz |
0 |
18GHz |
12Gbps |
0.5-1 |
-- |
4K・8K非圧縮伝送 |
UWB(Ultra-Wideband)は、非常に広い周波数帯域幅(通常500MHz以上)を持つ変調波を用いる無線通信方式の総称である。近距離での高速通信や高精度測位を可能とする。代表的な規格は、表 2‑38に示すIEEE802.15シリーズである。
表 2‑38 UWBシステムの主な規格
規格名 |
特徴 |
周波数帯 |
IEEE802.15.4-2020 |
高精度測距を狙った物理層規格と、シンプルな変調方式を用いる軽量な機器構成で1Mbps以下の低速通信を狙った仕様。チャネル幅は499.2MHz |
Low band : 3.1 – 4.9 GHz High band: 6.0 – 10.6 GHz |
IEEE802.15.6 |
体からのバイタルデータを無線伝送するための通信規格。UWBを許容することでシンプルな回路構成と低消費電力を狙っている。 |
|
IEEE802.15.8 |
端末間通信のためのPHY・MAC層規格 |
4.20 – 4.80 GHz 7.25 –10.25 GHz |
UWBは2002年に米連邦通信委員会(FCC)の認可がおり、民生利用が開始さた。日本では、2006年に通信用途(3.4〜4.8GHz帯、7.25〜10.25GHz帯)、2010年に衝突防止用車載レーダー用途(22〜29GHz帯)、2013年にセンサー用途(7.25〜10.25GHz帯)での利用が制度化された。通信用途とセンサー用途は屋内に限定されていたが、2019年に制度改正が行われ、7.587〜8.4GHz帯の屋外利用が可能になった。Appleが2019年に発売したiPhone11シリーズはUWBに対応し、以後UWBは広く使われるようになった。同社が販売するAirTagはUWBによってセンチメートルオーダーでの測距を可能とし、持ち物管理などに用いられる。また自動車の無線キーシステムでもUWBの採用が進んでいる。新しいシステムは無線キーの所有者が車両の近くにいることをUWBの測距機能で確認し、電波の不正な中継による解錠(リレーアタックという)を防ぐ仕組みを導入している。
NFC(Near Field Communication)はUWBよりもさらに近い距離での通信を想定する。非接触ICカードや電子タグがNFCの代表例である。制度上の名称は「誘導式読み書き通信設備」であり、13.56MHz±6.78kHzの周波数帯を用いる。13.56MHzを利用する非接触インタフェースの国際標準規格として、近接(Proximity)型のISO/IEC 14443系と近傍(Vicinity)型のISO/IEC 15693系がある。前者の通信距離は最長10cm程度であり主に非接触ICカードに利用されている。後者の通信距離は70cm程度であり物流の商品タグに利用されている。表 2‑39に近接型の国際標準規格の概要を示す。
表 2‑39 近接型NFCの国際標準規格
分類 |
無線部の |
通信プロトコルの |
概要 |
Type A (NFC-A) |
ISO/IEC 14443 |
ISO/IEC 18092 |
• 低機能、小容量のカード。オランダのフィリップス社が開発したMIFAREが起源。単機能のカードとして古くから採用されている。 • 入退室専用カード、たばこ購入用成人認証カードtaspo、一部の非接触クレジットカード決済(マスターカード PayPass)などに採用されている。NTTのICテレフォンカードや一部のバス乗車用カードにも採用されていた。 |
Type B (NFC-B) |
ISO/IEC 14443 (Type B) |
• 高機能、高セキュリティのカード。PKIに対応したものも多く、官公庁系のカードに広く採用されている。 • 個人番号(マイナンバー)カード、住民基本台帳(住基)カード、パスポート、運転免許証、在留カードに採用されている。 |
|
Felica (NFC-F) |
(ISO/IEC 14443 と同じASK変調) |
ISO/IEC 18092 |
• 低機能、小容量のカード。ソニーが開発。価格も安く高速処理ができる。日本では交通系や電子マネーで広く採用されている。 • Suica、PASMO、QUICPay/QUICPay+、おサイフケータイ、楽天Edy、nanaco、などに採用されている。 |
[1] 本解説では、CableLabs仕様における要件を以下の日本語により表示している。
MUST: 必須(必ず具備すべき要件)
SHOULD: 推奨(可能な限り満たすべき要件)
MAY: 任意(オプション要件)
[2] ETSI EN 302 769(DVB-C2)6.1 FEC encoding
[3] https://www.wlan-business.org/archives/29929
https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2203/11/news144.html
[4] https://www.wlan-business.org/archives/29929
[6] https://www.soumu.go.jp/main_content/000901961.pdf
[7] Frequency Range の略。FR1はサブ6GHz帯,FR2はミリ波帯。
[8] 繰返し送信などにより,大きな伝搬損失であっても通信を可能とする機能
[10]https://sensus.com/communication-networks/sensus-technologies/flexnet-north-america/
https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/nettech/1185970.html
Manual-RTM-II-FlexNet-User-Guide.pdf
[12] 最初は802.11ahで導入された。ただし3ビット長。目的は省電力化。
[13] E. Khorov, et. al., “A Tutorial on IEEE 802.11ax High Efficiency WLANs,”
[14] E. Khorov, et. al., “A Tutorial on IEEE 802.11ax High Efficiency WLANs,”
[15] https://www.wlan-business.org/archives/25022
[16] https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1222381412
[17] https://rainbow-wind.hatenablog.jp/entry/wifi6e-afc
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/rikujou/02kiban14_04000928_70.html
[18] https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20140917/377090/
https://www.silex.jp/blog/wireless/2014/07/ieee80211h.html
[19] https://fielddesign.jp/technology/wlan/ieee802_ch/